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「なあ……早く気付けよ……」
か細く、消え入りそうな声は、まるで自分の声では無い様だった。届く筈のない、空気に溶けて消えた、切実な想いが込められた言葉
どうすればこいつに俺の事を恋愛対象として見てもらえるか考えては、無駄な足掻きだなと自嘲気味に笑った
「はあ…………俺もソファーで……」
寝よう。そう思い、ベッドから抜け出そうとした時だった
「ん?……おい、離せ」
俺は下腹部の辺りを未だ掴んで離さない修一の腕に気付き、離せと声を上げた。しかし耳の直ぐ後ろから聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ
嫌な予感がして、俺は即座に修一の腕を掴んだ
「おい……って、ちょっ……、くそっ、なんで離さないんだっ……!」
本当に寝てるのかと疑いたくなる程、グッと力の込められた腕。俺よりも筋肉質な腕を振り解こうともがくも、どうにも振り解けない
「こんな体勢で寝てんな、修一」
「……」
「おい、とりあえず、この手を退けてから寝ろ」
「…………」
「あー、もう、いい」
起きる気配すら感じない修一に、最早諦める以外の選択肢が無い事を知った
もう、いい。諦めた。何を言っても聞こえないなら、これ以上抵抗しても無駄だ
俺は出来る限り、ギリギリの所まで身体を離してこのままベッドで眠る事を決めた。ただ、このベッドはシングルで、二人で眠る用には作られていない
身体を離すと言っても、ほんの数cm。身体と身体の距離は、3cm位しかあけられなかった
俺としては、あり得ない密着度。これは不可効力にしたって、近過ぎる。素面だったらきっと、心肺停止レベル
お酒を飲んでいた事が、せめてもの救いだった。正気の沙汰ではない
修一が呼吸する度に、首筋に息がかかってくすぐったい。腰の際どい部分に回された手に、焦ったささえも感じて身を捩った
この手が核心部に触れる事はないから、余計、辛い
右手も、一向に自由にはなってくれない。それどころか、俺の腕に直接絡み付く指先が身体の薄い粘膜から侵食して、俺の内臓を、脳内を、細胞をじわじわと侵していく
もう、何も考えられない。こんな風に触れられたら、頭がおかしくなりそうだ
急激に熱を帯びていく下半身を自覚していたが、こんな状況ではどうする事も出来なくて
正に、生殺し
朝起きた時、はたして、俺の息はあるのだろうか
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