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遠くで、薄っすらと、修一の焦った様な声が聞こえた。俺はまだ現実と夢の境を彷徨ってる所で、それがどちらのものなのかはわかっていなかった 耳の直ぐ側で何度も行き来する様な足音と、肩を揺さぶる大きな手の感触に、俺は、これはきっと現実だと思った。寝返りを打てなかった身体は、若干の痛みを訴えてきている 少しだけ身動ぎをすれば、ソファーが音を立てて、ギシッと軋んだ 「……と、さとっ……!」 「ん、何……?今、何時……」 「今日出勤の子が体調崩したみたいで、代わりに出てくる。悪いな」 「……あー、そっか、気を付けて、な」 多分、相当慌ててたんだろう。何時なのかと聞いた答えは、返ってこなかった。俺もまだ意識が完全に浮上しておらず、ただただコクンッ、と頷いた 虚ろげに映る視界の先で、修一が”また来る”と言って笑うのが見えて、それに応える様に俺も少しだけ頬笑む 遠くで玄関のドアが閉まる音を聞きながら、俺はまた、夢の中に足を踏み入れた 次に目が覚めたのは、昼だった。ああ、そっか、今日は日曜日だっけと目覚ましが鳴らなかった理由をぼんやりと考えた 億劫に感じなからもソファーから起き上がり、辺りを見回す。修一の姿はどこにも無くて、そう言えば、バイトがどうのとか言ってたっけと記憶を思い起こした 寝起きの喉はカラカラに渇いていて、俺は水でも持って来ようかと思った瞬間、テーブルの上に置いてある水の入ったペットボトルが目に止まった それは、あいつが夜に飲んでいた物。冷蔵庫に入れ忘れてそのままにしてあった、飲みかけのペットボトル 魔が、差した 俺はそれを手に取って、ゴクリと唾を飲み込んだ。否が応でも心臓が早鐘を打つ 駄目だって、わかってても止められなくて キャップを握り締めて、深く、深く深呼吸をした これからしようとしている事は、本当にくだらない事で それでも俺は、触れる事の出来ないあいつの唇に触れられる気がして勢いよくキャップを回す 震える手で、ゆっくりと自分の唇に近付けて 触れる寸前で動きを止めた ペットボトルをテーブルに置いて、はーっと息を吐き出す。頭をガシガシと掻き回した俺は、項垂れる様にテーブルに突っ伏した 「何、やってんだろ……」 ほんっと、限界だっつの
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