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「おーい、上島っ、こっちこっち」
今日は大学で入ってるサークルが飲み会を開くという事で、俺がその会場となる飲み屋に入ると、開始時間の15分前だと言うのに既に結構な人数が集まっていた
見知ったサークル仲間が俺の姿を捉え、名前を呼ぶ。俺が名前に反応する様に視線を向ければ、そのテーブルにこちらに背を向けて座る修一の姿があった
後ろ姿でもわかる。少し遊ばせた茶髪。ゆったりめの水色の服に、少しだけ曲がった背中
ドクンッ、と、心臓が鳴った
修一は俺が斜め前の席に座ると、ニカッと笑ってドリンクのメニュー表を渡してきた。その笑顔に、また、キュッと胸が詰まる
今日は30人近くのメンバーが集まり、幹事の乾杯の音頭と同時に無礼講と言わんばかりに各々騒ぎ始めた
俺はというと、飲み会だからと言ってもそんなにはしゃぐタイプでも無いし、座ったのは隅っこの席だからと静かにビールを飲む
時折、他のメンバーと話している修一をチラリと横目に見るだけ
同じテーブルに座っているものの、斜め前の席から話しかけるのもおかしな気がして中々話しかけられない
こんな事ならサークルメンバーじゃないけど、夏富を誘えば良かった。このサークルは緩くて、現に隣のテーブルはサークルメンバーじゃ無い奴も座ってる
俺の隣に座ってるのがせめて女じゃなけりゃ、少しの会話位は、出来たかも知れないのに
「上島君って、彼女とか居るの?」
「いないですよ」
「じゃあ立候補しちゃおうかな?上島君って何か近寄りがたい感じするけど、よく見るとかっこいいし」
隣に座ってるのは、一つ年上の先輩だ。俗に言う肉食女子。先程から妙に身体を寄せられ、今にも腕に胸を押し付けられそうな勢いだ
しかし女の武器を惜しげもなく使われた所で、俺は他の奴と違ってそんな物には引っかからない
むしろ、かっこいいしって、何だよ。外見しか興味無い奴は、女の中でも特に嫌いだ
どうにかして、席を立ちたい。この先輩から離れたい。女は気を遣わないと後々面倒だから、出来るだけ傷付けない様に立ち去る方法は無いだろうか
もうそろそろ、香水の香りを嗅ぎ続けるのも、笑顔を作るのも限界だ
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