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「あー、るりちゃん先輩っ、そいつ女の子にトラウマあるみたいなんで、あんまりちょっかいかけないであげてくださいよ」
不意に、俺達二人の会話に入ってきた、優しい声音。るりちゃん、とは、恐らく俺の隣に居る先輩の下の名前だろう
その声に反応したのは、先輩だけじゃない。自分の意思とは関係なく、僅かに、指先がピクリと動いた
「えー、修一君、それ本当?」
「本当ですよ。だから、狙うなら俺みたいなのにしといてね」
「やだあー、修一君ったらっ」
先輩の意識は、完全に声の主である修一へと向けられた。テーブルを挟んで目の前に座る修一に、前のめりになりながら食い付く姿は、正に肉食。いっそ、ここまで来ると称賛すらもしたくなる
俺は有難い事に、直さま先輩から拘束されていた腕を解放された。本来なら喜ぶべき所だが、正直この状況がいまいち掴めず、暫く放心状態が続いている
この状態は、なんだ
もしかして俺は、修一に助けられたのか?
前に一度だけ、修一に女はあまり好きでは無いと言った事があった
理由を尋ねられて、うるさいからだとか、我儘だからだと答えたのを憶えてる
その事を、修一も憶えていたんだろうか。だから、こうやって、助けてくれたのか。俺から先輩を引き剥がす為に、先輩の注意を逸らしてくれたのか
……んだよ、それ。かっこよすぎんだろ
俺はそれがわかった瞬間、酒の所為だと言い訳出来ないレベルで、顔を真っ赤に染め上げた。俯いて必死に顔を隠して、迫り来る感情の波を払う様に小さく横に首を振る
勘弁、しろよ。お前は、どれだけ俺の心を占領すれば気が済むんだ。正常な脈拍、返せっつの
あー、もう、好きだ。さり気ない優しさとか、そういうのほんっと弱い
俺はまた、この瞬間も、修一に恋をした
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