【3】

6/13
前へ
/192ページ
次へ
「あー、るりちゃん先輩っ、そいつ女の子にトラウマあるみたいなんで、あんまりちょっかいかけないであげてくださいよ」 不意に、俺達二人の会話に入ってきた、優しい声音。るりちゃん、とは、恐らく俺の隣に居る先輩の下の名前だろう その声に反応したのは、先輩だけじゃない。自分の意思とは関係なく、僅かに、指先がピクリと動いた 「えー、修一君、それ本当?」 「本当ですよ。だから、狙うなら俺みたいなのにしといてね」 「やだあー、修一君ったらっ」 先輩の意識は、完全に声の主である修一へと向けられた。テーブルを挟んで目の前に座る修一に、前のめりになりながら食い付く姿は、正に肉食。いっそ、ここまで来ると称賛すらもしたくなる 俺は有難い事に、直さま先輩から拘束されていた腕を解放された。本来なら喜ぶべき所だが、正直この状況がいまいち掴めず、暫く放心状態が続いている この状態は、なんだ もしかして俺は、修一に助けられたのか? 前に一度だけ、修一に女はあまり好きでは無いと言った事があった 理由を尋ねられて、うるさいからだとか、我儘だからだと答えたのを憶えてる その事を、修一も憶えていたんだろうか。だから、こうやって、助けてくれたのか。俺から先輩を引き剥がす為に、先輩の注意を逸らしてくれたのか ……んだよ、それ。かっこよすぎんだろ 俺はそれがわかった瞬間、酒の所為だと言い訳出来ないレベルで、顔を真っ赤に染め上げた。俯いて必死に顔を隠して、迫り来る感情の波を払う様に小さく横に首を振る 勘弁、しろよ。お前は、どれだけ俺の心を占領すれば気が済むんだ。正常な脈拍、返せっつの あー、もう、好きだ。さり気ない優しさとか、そういうのほんっと弱い 俺はまた、この瞬間も、修一に恋をした
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1897人が本棚に入れています
本棚に追加