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ピンポーンッ
修一と別れて、フラフラとした足取りで向かった先は、自宅では無かった
意図してそこに向かった訳では無くそれは無意識に近くて、本能的に一人になりたくないとでも思ったんだろうか
いつもなら簡単な連絡を入れてから来る癖に、気が付いたら既に玄関の真ん前に立っていて、もうそんなもの必要無いかと呼び鈴を鳴らした
頭の中は何だか、夢の中に居るみたいにふわふわとしていた。深く、深く、光すらも届かなくなった水底に沈んで、現実なのに現実を未だに受け入れられない
ここまで、俺はどうやって来たんだろう。あの場所から、恐らく二駅分は離れていた筈なのに
まあ、そんな事、どうだっていい
もう何もかもがどうだっていいと思った。自暴自棄。俺は何とも愚かで、浅はかだ
一度目の呼び鈴を押して、少しの間を置いてから玄関のドアは開かれた。ドアの向こう側に居る相手は俺の姿を見て驚き、ドアノブを握ったまま固まった
無理もない。俺は今日、サークルの飲み会があると事前に言っていたから
「はい…………上島?」
「悪いな。急に」
「飲み会……」
「あー、抜けてきた」
「ふーん。とりあえず、上がっていくか」
急な訪問に驚いた様子ではあったが、特に理由を聞いてくるでもなく俺が玄関に入りやすい様にスペースを空けてくれた
どうぞ、と、招き入れられ、玄関に足を踏み入れる。後ろから、ガチャリとドアが閉まる音が聞こえてきた
鍵をして、こちらに背を向けた家の主の背中に手を伸ばす。きっとこれも、無意識
目線の先には、俺よりも高い位置にある肩。人間の身体の中で一番重たい部分を目の前にある肩口に預けて、消え入りそうな声を上げた
「夏富……今日、泊めて」
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