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泊めてくれと言う俺の言葉には、特に、返答らしい返答は返ってこなかった。しかし、”先に風呂でも入るか”と聞かれたから、恐らくこれは泊まっていいという事なんだろう
そう言えば夏富から、石鹸がボディーソープか、はたまたシャンプーだろうか。とても柔らかくていい匂いがする。風呂上がりなんだなと、頭の片隅でそう思った
俺は脱衣所のドアの前で足を止めると、先にリビングに入っていく夏富の言葉に甘えて、シャワーを借りる事にした。夏富からタオルと着替えを受け取り、早々にタバコと酒の匂いが染み付いた服を脱ぎ捨てた
適温のお湯を身体に受けながら、先ずは頭を洗って、身体を洗って
流れ出た水が渦になって排水口に吸い込まれていくのを眺めながら、俺は、今ならシャワーから出てくるこのお湯が、全てを流してくれる気がした
まだ、耳に残るあの言葉も、このやり場のない想いも、どこにもぶつける事が出来ない感情も全て
洗い流してくれればいいのに
全部、今日起こった事全部無かった事にして。また明日からは、いつも通りに学校で修一と会って、バイト始まる前にご飯一緒に食べて……それから…………
もう、そんな事も、出来ないんじゃないだろうか。俺の所為で
冗談だと、笑い飛ばしたけれど、恐らく言う前と後とでは、何かが違う。修一がいくら普通に接してくれたとしても、俺自身が、普通に接する事を許さないだろう
あんな事、一生言うつもりなんて無かったのに
ただ、側に居れるだけで良かったのに
自然と零れ落ちる涙は、お湯と溶け込んで、未だ目の裏側に焼き付いて離れない綺麗な横顔に、届く筈のない手を伸ばした
「しゅ、いちっ……修一っ……」
俺って、本当に、嘘つきだ
側に居れるだけで、なんて、そんな事思ってたらきっとこうはならなかった
俺の本心はもっと醜くて、邪で、穢れてる
一度でいい。恋人の様に、この掌に有りっ丈の想いを乗せて、お前に触れてみたかったよ
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