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こいつは俺の幼馴染みであり、親友の宮路 修一。走ってきたのか、膝に手を置いて荒い呼吸を必死に整えている
修一が服の袖で額に滲む汗を拭う仕草を目で追いながら、俺は少しだけ距離を詰めた
だいぶ呼吸が整ったのか、俺が近付いたからだろうか、修一は顔を上げて、再び俺の名前を呼んだ。それも、とびっきりの笑顔で
「さと、はよっ」
……ドクンッ
それまで正常だった筈の鼓動が、これでもかという位速くなくなるのが、自分でもわかった
まるで、胸に矢が突き刺さった様な、メルヘンチックだが例えるならばそれが一番適切だろう
脈拍数は、明らかに、100を超えてる気がした
身体は徐々に体温を上げ、心臓の音が、耳の直ぐ側で聞こえる。ドクン、ドクンと大きな音を立てて、俺の脳内を支配する
走ってもいないのに、まるで、全力疾走した後みたいに酸素が足りなくなって
ああ、もう、何年経ったって、この笑顔には敵わない
「はよ。まだ間に合うのに、なんで走ってんの」
現在の時刻は、午前10時と言った所か
この時間なら、二限目には余裕で間に合うだろう。なのに何故走ってるんだと頭に疑問符を浮かべれば、修一は俺の質問にキョトンとした表情で首を傾げた
「えっ、だって、さとが歩いてんの見えたし」
「……っ……」
俺は修一の言葉を聞いた瞬間、少しだけ、呼吸という行為を忘れた。それは人間にとって一番大事なものであると言うのに、それを忘れてしまう位には、その言葉は俺にとって衝撃的だった
”さと”とは、俺の悟理(さとり)と言う名前からさとの部分だけを取ったあだ名だ。昔から、この呼び名が変わる事は無かった
その声で俺の名前を呼んで、さも当たり前の様に、さらりとそんなセリフを言ってのけるなんて
無自覚なのはわかっているけど、本当に、あり得ない。言われたこっちが、恥ずかしくなる
俺と修一は学部が違う。それなのに、走ってきたのか
俺が居たから、走ってきたとか
どうしよう。めちゃくちゃ嬉しくて、頬の筋肉が緩んでしまう
緩みそうになる頬を引き締め何事も無かったかの様に振る舞うも、内心は穏やかではない
頼むから、笑顔でそういう事言うのやめてくんないかな
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