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二限目の授業を終え、俺の周りに居た学生達はこぞって学食を目指す
ペンを走らせる音や、ノートをめくる音だけが響き渡っていた教室が、一気に話し声や雑踏に包まれた
その中で俺は荷物をカバンの中に詰め込むと、隣に座っていた夏富に行く所があるからと断りを入れて席を立った
夏富は恐らく、俺が修一の所に行くと思ったんだろう。少しだけ眉間に皺を寄せたが、直ぐに無表情になり、一度だけ頷いた
今日は三限目もあるから、夏富にまた後でと言って部屋を出ると、俺は迷わず食堂とは逆の方向である左側に向かって足を踏み出した
大学の敷地内を歩き、同じ学部の奴らの横を通り過ぎて出来るだけ人気の無い場所を探す
密集する建物の間を抜け、5分も歩けばもう既に周りには人気が殆ど無かった
丁度よく座れそうな場所が無いかと辺りを見回す途中、カバンに入れていた携帯電話がバイブした。バイブ音が直ぐに途切れたから、恐らくはメールだろう
何となく、メールを送ってきた相手が修一な気がして、ドクンッ、と心臓が跳ねた。ここ最近のメールの相手は、修一しかいない
カバンから取り出してメール画面を開くと、案の定相手は修一だった。毎日変わらずに送られてくるメールの内容が、嬉しくて、痛い
『今日、バイト夕勤?夜勤?
夕勤なら、終わった後泊まりに行っていい?』
断っても断っても、誘いのメールは毎日来る。それが堪らなく嬉しくもあり、このメールが途絶えた時の事を考えると不安で押し潰されそうになった
早く、早くあの時の事を忘れよう。あんな夜なんて、無かった事にしてしまおう。きっと、修一だってそれを望んでる
じゃないと、こんな風に連絡をくれる訳無いんだ
そろそろ誤魔化し切れなくなってきているのは、薄々気付いてた。これ以上夏富に迷惑かける訳にもいかないし、こうやって大学で会わない様に隠れるのだって結構無理がある
早くしないと
早く、早く、元の関係にーー
「さとっ……、やっと見付けたっ」
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