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聞き慣れた声が、脳内を大きく揺さぶる様に俺の耳に入ってきた。ハッと顔を上げ、俺が後ろから聞こえてきた声に反応するよりも先に、右肩を掴まれ勢いよく引っ張られる
めまぐるしく変わる視界の景色。俺は、あまりにも唐突な出来事に思考も身体もついてこれなかった
「しゅっ……!」
「家でも学校でも全然捕まんねえんだもん、探したぞっ。学食にも居ないしどこ行ってんのかと思ってみれば、何つー所に居んの」
「なんで、ここっ……」
「お前と同じ学部の奴が、こっちに歩いて行くのを見たって言ってたから。でも良かった、さとが見つかって」
屈託のない笑顔が、俺の目の前、半径30cm以内の近い距離に、今正に存在している
予想外の出来事が、起こった
修一から逃げて、逃げて、逃げ回ってここに辿り着いた筈なのに
なんで、どうして、修一がここに居る
たった1分とかからず、俺の頭の中は既に大混乱だ。思考回路は、まるで鋭利な刃物で切断された様に機能を停止した
なんと言うか、言葉で表すとすれば、高圧の電流が流れる電線が切れてバチバチと火花を散らすみたいな、そんな感じ
そんな状態で、正常に物事を考えるなんて不可能で
修一、修一が、居る
俺の目の前に修一が……
何でとか、どうしてとか沢山思い浮かんでは、直ぐに消えていく。本能的に、この場から逃げなくちゃいけない気がした。まだ会ってはならないと、まだ早過ぎると、頭の中で痛い程に警鐘が鳴り響く
逃げたいのに、身体はまるで動かない。神経の伝達信号が正常に働いてくれなくて、足が地面に縫い止められた様になって後退る事を許さない
修一が走ってきたのは、一目瞭然だった。季節はもう既に秋。走って来なければこんなに汗だくにはならないだろう
はあ、はあと息を切らしながら汗を拭う修一の姿が、久々に本物を見た所為か妙に生々しくて
首筋をつぅ、と伝う汗が、俺を何とも言えない気持ちにさせる
なんでこんなになるまで、俺を、捜してたんだ。恋人でも無いのに、なんでだよ
やめろ
この汗も、荒い吐息も、その……笑顔だって
今目の前にある修一の全ては、俺が作り出したものなのかと、勘違いしそうだ
目を覚ませ。目を覚まして、とっとと言い訳を作って、この場から逃げろ
修一にまた変な事を言ってしまう前に、早く
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