【4】

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自然と地に落ちていた視線を前へ戻すと、そこには修一の視界から俺を消すように立ちはだかる背中があった。この白いシャツ、この声 紛れもなく、さっきまで一緒に授業を受けていた人物だ いきなり現れた人物に、修一がいつもでは考えられない程ドスの効いた声で質問を投げかける 「……あんた、誰だ。そこ退けよ。俺はさとと話してんだ」 「俺は上島の友達。上島と昼飯食べる約束してるんだ。中々約束の時間になっても現れないから、迎えに来た」 「……同じ学部の友達って、もしかしてあんたか?」 「まあ、恐らくそうだろうな。とにかくこっちが先約なんだ。優先してもらうぞ。ほら、上島、行こう」 「ちょっと待てっ……、話はまだっ……!」 夏富は若干嫌悪感を露わにしつつ端的に修一の質問に答え、修一の制止を振り切って俺の腕を引っ張りその場を後にする 夏富はただただ前を真っ直ぐに見つめて、こちらを振り返ろうとはしない 向かっているのは学食の方向である事だけは確かだったが、夏富が、何を考えて俺をあの場から連れ出したかまでは理解出来なかった 俺は遠くなっていく修一の声に胸を撫で下ろすのと同時に、それでも修一の声が頭から離れなくてどうしようもなく駆り立てられる感情に、今にも不整脈を起こしそうだった 矛盾が俺の心を蝕んで、凄く息苦しい。ただ一つ言えるとすれば、あの場から抜け出せて、本当に良かったという事だけだ
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