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「夏富……手、そろそろ」
「ん、ああ。忘れてた」
他の学生達が、手を繋いで歩く俺達を見てクスクスと笑う声が耳に届いて、急激に恥ずかしくなった俺は夏富に手を離してくれと頼んだ
手を離す事を本気で忘れていたのか何なのか、夏富は初めてこちらを振り返ると、ああと一度頷いて直ぐに繋いでいた手を解いた
「夏富、どうして……」
「何がだ」
「約束なんて、して無いよな」
夏富とは、普段からお昼を一緒に食べる約束をしてる訳じゃない。レポートの提出が近くなると、どちらかが一緒に食べないかと持ち掛ける
あとは、タイミングが合えば一緒に食べたり。でも今日は、約束してはいなかった筈だ
なのになんで、修一にあんな事を言ったのか。なんで俺をあの場から連れ出してくれたのか、俺にはわからなかった
「あれは口実だ。こうでも言わないと、引き下がらなかっただろ」
「そうじゃなくて……」
俺と修一が親友である事は、よく知ってる筈だ。俺が修一を避けてる事は夏富には一切言ってはいなかったし、夏富の返答は、あの場から俺を連れ出した理由にはなっていない
どうして、と、俺は夏富の行動に疑問しか浮かばなかった
「そうだな。何となくだが、あの場から連れ出した方がいい気がした。……迷惑だったか?」
迷惑かと聞かれて、俺は素直に首を横へ振った。連れ出してくれた理由は、ただ、何となくだったんだと夏富は言う
俺はその返答を聞いて、もしかしたら逃げ出したいと思う感情が、顔に出てたかも知れないなと納得した
「いや……むしろ、助かった」
「喧嘩でもしたのか」
「まあ、そんなとこ。けど、なんであんな所に居たんだ?」
「ああ、それは……たまたまだ」
あんな人気のない場所に来るなんてと思ったが、夏富はそれ以上何も言う事は無かった
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