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大学の授業を終え、大粒の雨が降る中で俺は黒の傘を差して家に帰る所だった。靴とズボンの裾をじんわりの濡らしながらも、俺はその事を気にも止めず早足で歩く
その後ろを濃いめの青い傘を差して着いてくる、昨日までただの親友だった筈の、想い人。俺の授業が終わるのを教室前で待ち伏せされて、あっという間に捕まってしまった
「なあ」
「……」
「なあって。さと」
「……なんだよ」
「無視すんな」
俺は後ろからの声掛けを何度も無視していたが、しつこくされて流石に返答を返した。振り返る事なく前に突き進む俺は、声だけでは修一の感情が読み取れず、一度返答を返して以降また押し黙った
正直、無視したくもなるだろうが。あれだけ一方的に言われたらさ
俺は未だ、昨日の現実を上手く受け入れられていなかった。昨日、あれからずっと修一の事ばかり考えてて
せっかく修一と付き合えるんだから、もっと喜んでもいいんじゃないかって。そうだ、俺はどんな事をしてでも付き合いたかったんだから、これはチャンスなんじゃないかって
恋人同士ならば、修一の髪に、手に、頬に、簡単に触れられるかも知れない。距離なんてそんなもの一切気にせず手を伸ばして、無防備に晒される肌に指を這わせて、そのままキスだってーー
ああ、そんな風に、思えたらよかったのに
好かれてないのに付き合うだなんて、これ程虚しいものはなかった。俺は、恋人として求められてるんじゃない。俺を側に置けるなら、きっと修一はなんだってよかったんだ
俺はまた、修一に突き放された。俺なんて恋愛対象じゃないと、間接的に言われてしまった
その事が、心底辛かった。認めたくないとさえ思った。俺はバカだ。もっと素直に、現状を喜べる性格だったらよかったのに
『付き合ってよ』
昨日修一に言われた言葉が、不意に脳裏を過ぎった。その言葉を払拭したくて何度も首を横に振る
やめろ、俺をこれ以上惑わせるな。その声で、恋人へ繋がる言葉を紡ぐな
俺はいつまで、この想いに振り回されればいい。いつまで、こんな想いを続けなければならない
修一の側に居られないのなんて、考えられなかった。でも側に居る事でこんなにも辛い想いをするなんて、思いもよらなかった
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