【5】

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恋人、なんて、簡単に言いやがって。そんな思いからか、俺は再びドアを閉めようとした。修一が未だ反対側のドアノブを握っている事はわかっていたから、全力で手前に引く 力では敵わないから、勿論ドアが閉まる事は無かった。それも最初からわかっていたけど、せめて修一の思い通りにはならない事を示したかった 「悪いけど、昨日の事なら全部忘れた」 「ひっでえな。それ言ってる時点で、はっきり憶えてるくせに」 「じゃあ、冗談か、新手の嫌がらせだったんだろ」 「俺が冗談で言ってる様に見えた?」 冗談で言ってる様に、見えなかったから困ってる。むしろ冗談だと思いたいからこそ、俺は確認する様に冗談だったんだろうと言ったんだ 「冗談じゃないよ。だから、中に入れて。ここじゃまともな話も出来ねーじゃん」 修一は念を押す様にそう言うと、開いているドアの隙間に割り込んで来た。不意に近付いた距離に反射的に身体が後ろへ傾くも、ギリギリの所で踏み止まって修一の侵入を阻止する 「ね、さと。入れてくんねーの?」 「……俺には話す事なんてない」 「俺にはあるよ」 至近距離まで顔を近付けられた俺が堪らず視線を外せば、いきなり修一の腕が伸びてきて、そのままグイッと顎を掴まれ無理矢理視線を合わせられた 黒い瞳が俺の姿を捉え、そのままゆっくりと細められる。一切揺らぐ事のない鋭い視線に、否が応でも目が奪われてしまう ドクンッ、と、心臓が大きな音を立てた ああ、嫌になる。こんな時まで、俺は修一が好きで好きで堪らなくて、胸がいっぱいになるんだから 「さと」 もう一度名前を呼ばれたら、今度こそ逆らえない
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