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俺が暫く何も言えずにいると、痺れを切らした修一が、はあ、と盛大に溜息を漏らして口を開く 「ねえ、さとは俺に言いたい事とかないの?」 「言いたい、事……?」 突然された質問の意図がわからずそっくりそのまま聞き返すと、修一はそうだと言って一度だけ大きく頷いた 修一は感情の読み取れない複雑な表情でこちらを見上げてくる。その表情は、怒っているというよりはむしろ、悲しんでるとかそういった表現の方が正しいように思えた 「俺さ、なんでさとが俺を避けるのか、考えたけどわかんなかったんだ。俺があの日、なんかしたなら言ってよ。謝るからさ」 避けてた理由を教えてくれと、修一は言葉を続けた。その言葉に、声に、心臓が大きく揺さぶられる 視界に捉えた修一の指先が、小さく震えた気がした。言葉の語尾も、消え入る様にか細くなっていくのが感じ取れた 俺の心は更に揺れ動き、咄嗟に、口から何かが溢れ落ちそうだった。想いが、今にも溢れてきそうだった もう、これで何度目かもわからない。好きだと、好きなんだと言ってしまいそうになったのなんて 世の理に反する様なこんな感情が、簡単に言える訳ないのに 好きだなんて、修一を困らせるだけだ。いや、それとも俺はこんな状況になってもまだ恐れているのか。修一から、軽蔑の眼差しを向けられる事を 俺は、例え男からの告白でも、好意を寄せられる事が嬉しいと言った修一の言葉も信じずに 此の期に及んでも尚、この想いを知られたくないとでも言うのか 「…………別に、何もない」 「……っ絶対あるだろ。じゃなきゃ、さとが理由もなく俺を避けるとも思えない」 「違っ、違うっ。本当に、理由なんてなーー」 理由なんて無いんだと、言葉を紡ごうとした次の瞬間、修一の顔付きが変わった 「違わねえだろっ……!」 俺の言葉を遮る様に声を張り上げた。焦れた様な、何とも言えない表情に変わったと思ったら、あっという間に距離を詰められて 腰の辺りにガッシリとした腕が絡み付いて、強い力で修一の方へと引き寄せられる 「う、わあっ……!」 そのままぐるりと俺の視界が180度変化して、変化に対応しきれなかった俺の身体は抵抗する暇なく修一に捕まった。捕まった後でジタバタと足掻いたって、意味もなくて 腰に回された両腕が、絶対に離さないと告げていた
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