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「さと、こっち向け」
「無理」
この状況で、それを言うのか
それから5分以上経っても、さっきの流れで修一は俺を離してくれない。むしろ5分間もこの状態で耐え続けてる俺に、賞賛すらして欲しい位だ
修一から放たれるオーラの様なものが、先程と打って変わって柔らかいものに変化しているのを肌で感じる。口調だってこんなにも優しくて。本当に、もう、怒ってないんだろうか
それどころか、二人を包む空気は妙に甘ったるくて、余計逃げ出したくなった
「お前さ、彼女とかと居る時もこんな感じなのか」
「んー、まあ、こんな感じかなあ。俺結構くっ付くの好きだし」
「男の身体だぞ」
「確かにちょっと骨張ってて硬いかな。もっと食べろよな」
「そう言うんじゃ、なくて……」
俺が本当に聞きたいのは、気持ち悪いとか、そんな風には感じてないのかって事だ
女みたいに柔らかくもなくて、すっぽり胸の中に埋まってしまう様な小ささでもない
こんな、男の身体を抱き締めて、気持ち悪いとは思わないのかよ
「さとの髪、サラサラだよな。俺の髪、同じシャンプー使ったってこんな風にならねえや」
「……この、天然が」
俺の心配なんて鈍いこいつが気付く筈もなく、俺は今日何度目かもわからない溜息を漏らした。こいつの無自覚さは今に始まった事じゃないから、今更考えたって無駄な気がする
むしろこれだけくっ付いてても何も言ってこないなら、気持ち悪いとは感じて無いんじゃないのかなんて、自分に都合のいい方に考えてみた
まあ、だからって髪の毛を指先でこんな風に弄ばれたんじゃ、堪ったもんじゃないんだけど
修一の指先が、直接皮膚に触れた訳でも何でもない。ただ、クルクルと髪の毛を指に絡めて、感触を確かめてるだけ
時には梳いて、時にはくしゃっとしてみたり
ただそれだけなのに、こんなにも、この行為は俺を追い詰める。身体を痺れさせる
触れそうで触れない距離がより一層俺を駆り立て、神経を集中させてしまうんだ。もう、訳がわからない。早く解放して欲しいのに、心のどこかでもっと、と叫んでる自分がいた
これ以上俺の中に入ってきて、感情を掻き乱さないで。頼むから、正常な脈拍、返せよ
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