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俺が楽しみだ、と言って笑うと、夏富はそうだなと言って俺よりも先に歩き出した。俺の隣をすり抜けると、夏富はそのまま次の授業が行われる教室に続く階段を登っていく
置いて行かれた俺は慌てて夏富を追いかけ隣に並んだ。並んだと同時にチラリと横目に見た夏富は、俺が普段見ている表情のどれとも違っていて、その瞬間驚いたというか固まった。それはもう瞬きすらも忘れて
え……夏富が、笑ってる……?
そこには、ほんの少し口角が上げられただけだが紛れもなく笑顔を浮かべる夏富が居て。しかし普段から夏富が笑顔を見せる事なんて殆ど、いや、俺は多分夏富の笑顔を初めて見たと思う
そりゃあ人間だから笑うのは当たり前なんだろう。でも、驚いた。初めて見た夏富の笑顔は、普段の寡黙でクールな印象からは想像出来ない様な、優しい、温かささえ感じられる笑顔だ
……夏富って、こんな風に笑うのか
どうにも珍しくて、横顔じゃなく正面から見たいと思った俺が夏富の顔を覗き込むと、俺の思う所がわかったのか、夏富から頬を抓られてしまった
正面から見た夏富は、何ていうか、嬉しいといった感情の色が強く滲み出てる。きっと、夏富を笑顔にさせる程の何かがあったんだろう
「何かいい事でもあったのか」
「いや」
「教えろよ」
「何でもない」
何でもないと言った夏富の笑顔は、やっぱり、どこか嬉しそうな笑顔だった
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