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俺はどう思うかと聞かれた事すらも忘れて、俺は無意識に嫌だ嫌だと首を横に振っていた。修一の手の感触なんて、今の俺には一切考えられない。この状況も、一向に呑み込めない
「修一、ちょっと、待って。おかしい。この状況、何かおかしいって」
「だって、さとが言ったんだろ。手を繋ぐって」
「あ、いや、だからってこれはっ……!」
「うーん、これヤバいな。なんか恥ずかしい」
手を繋いで男が平気か試したいと言った俺に、修一は少しも臆する事なく指を絡めてきた。男相手に、躊躇いもなく
修一が俺の手を握り締めるまでの流れはごく自然で、慣れてる様な印象を受けた。そのままふわりと笑われたら、例え好きじゃなかったとしてもドキッとしてただろう
俺は修一の顔が見れなくて、修一の視線からも自分の手からも視線を外す。この部屋の空気が、どこかむず痒く感じて逃げ出したくなった
まるで蜂蜜を全身に浴びてるみたいに甘ったるくて、肌に絡み付いてくるこれを拭いたいのに、拭う事すら許されないみたいな
怖いと、思った。わかるんだ。自分が今どんな顔してんのか
きっと、グチャグチャの、ドロドロに蕩けた様な酷い顔してる。繋いだ手だってもう、手汗で湿ってしまって。好きな人と手を繋ぐって、こんなにも、ドキドキするもんなのか
いや、ドキドキなんてもんじゃないな。心臓バクバク。さっきから心拍数は上がる一方だ
「手とか、彼女ともあんま繋いだ事ないな。腕組むのとかしてたけど、なんかこれ、すっげえ新鮮」
こんな状況の中でそんな事言われたら、ますます、危ないって。お前は知らないだろ。お前の放つ言葉で、俺がどんな風になるかなんて
彼女とも滅多にしない様な事を、今、俺としてるのか。最も簡単に握ってきておいて、後になって気恥ずかしそうにするのって、それ反則だろ
「お前、もう、喋んな」
「え、何で」
「いいから、喋んな。あと、もういいだろ。そろそろ離せよ」
最後まで握り返す事は出来なかったけど、もう充分だ。俺は手を離せと、未だ離そうとしない修一に抗議の念を唱えた……のに
「もういいって、まだ全然試せてないだろ。えっと、あとは、抱き締めるんだっけ」
「え……?」
修一は繋いだだけじゃ試した事にはならないんじゃないかと言いたいらしい。次の瞬間、今まで直ぐ側で感じていた修一の匂いが、強く色濃くなって俺を襲った
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