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一人暮らしの俺の部屋で、まるで自分の家の様に寛ぐ修一。俺はそれを呆然と眺めながら、部屋のドアの前でそっと頭を抱えた
あれ、確かに行くなとは心の中で思ってたけど、まさか顔に出てたか?
彼女の所に行くってこいつが言った時、嫌な顔してたとか?
いや、大丈夫だ。こいつは鈍いから、例えそうだとしても気付かない
「そんな所で何してんだ?早く来いよ。折角二十歳過ぎたんだしさ、今日はゆっくり飲もうぜ」
「いや、だから、何でお前がここに居るんだって聞いてんだけど。って、ちょっ……引っ張んな」
俺は腕を引っ張られ、無理矢理修一の隣に座らされた。お互い二十歳になりお酒を飲める歳になった事が嬉しいのか、修一がニコニコと鼻歌混じりにビールの缶へ手を伸ばす
「ほら」
「あ……りがと」
俺は修一から差し出されたビールの缶をおずおずと受け取ると、ふと、何となくこの状況が理解出来た様な気がした
修一の彼女は同い年だけど、まだ誕生日が来てないとか言ってた気がするから恐らく十代だ。一緒に飲みたくてもまだ飲めないから、俺の所に来たんだろうな
俺は返ってこなかった質問の答えをそう解釈し、隣に居る緊張からか、強張っていた身体から少しだけ力を抜いた
受け取ったビールの缶はまだ冷たく、無数の水滴が俺の指先を濡らす。軽く乾杯をして一口だけ口に含めば、慣れないほろ苦い味が口の中いっぱいに広がった
「さと、狭くないのか?」
「別に」
「もっとこっち来れば?」
「……このままでいい」
俺は二人掛けのソファーの端ギリギリに座り、必死に修一との距離を取っていた。いつもより、スペースを空けて
確かに修一の言う通り狭っ苦しいし、実家から持ってきたこのソファーは大きいからもっと真ん中に座ればいいんだろうけど
これ以上近付くのは、憚れる。ただでさえ、俺が日常生活を送ってる場所に修一が居るってだけで、結構いっぱいいっぱいなんだ
こいつが泊まりに来る時はいつもそう。内心では、ずっと、ドキドキしてる
ただでさえ心臓の鼓動が速いんだ。これ以上なんて、絶対、無理だ
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