【7】

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彼女から振られた傷が少しずつ癒えてきた頃、その言葉が気掛かりだった俺の視線は、いつの間にかさとへと向けられる様になっていた 無意識にさとの行動を目で追い、言葉の意味を探して、まるで植物でも観察するみたいにジッと見つめる 俺はさとの家を度々訪れていた。まるで、自分の家に帰ってくるみたいにして 俺の持ち込んだ物や着替えの洋服たちのせいでワンルームの部屋がより狭く感じる位には、さとの家に入り浸っていた もっと、近くに居れば気付けるのだろうか。近付けるのだろうか。さとが俺に伝えたかった、言葉の意味に 俺はソファーに座り、キッチンに居るさとを眺めていた。俺の視線の先に居るさとは、インスタントのラーメンを二人分鍋に入れ、グツグツと煮込んでいる最中だった 男の一人暮らしだと、インスタントラーメンに頼る事も多い。さとの手つきは、手慣れたものだ さとの後ろ姿は、やけに線が細く見えた。相変わらず、痩せてる。そう言えば、昔から食べても食べても太らないと言っていたな、と懐かしい記憶を思い出した そのまま後ろ姿を眺めていると、不意に、さとが後ろを振り返りこちらへ視線を向けてきた 瞬間、視線が交わる 見てたのバレたかな、とギクッと心臓が跳ねた。しかし目が合ったのはほんの一瞬で、視線は直ぐさま逸らされた。さとは何事も無かった様に鍋へと視線を戻し、菜箸で麺を解きほぐす 「なーによそ見してんの」 「……っ、別に。なんでもない」 「もしかして、もう出来た?」 「あー、いや、もうちょっと」 料理が出来た訳じゃないのか。確かに、茹でるにしては然程の時間も経っていない じゃあ何でこっちを見たのか。そんな疑問は、特には浮かばなかった 俺がさとを見るようになって、もう何度目かもわからない。真っ黒な瞳に、俺が映るのは あの言葉の意味を探す上で多く起こる事、それは、度々さとと目が合う事だ。今日みたいに、俺がさとへと視線を向ければ、さともこちらに視線を向けてきたり 或いは、何となく視線を感じて振り返ると、さとがこちらを見ていたり とても不思議だった。最初は俺の顔に何かついてるとか、そんな理由だろうと思っていた。でもそう言い切れなくなる位には、俺は、さとから見られている気がしていた
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