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 タツオとジョージは幸野丸美にうながされ、テルとクニが先に待っているテーブルに腰かけた。胸に銀の盆を抱えたサイコが頬(ほお)を赤くしていった。そういえば、サイコと口を利(き)くのは予選会のあと以来だ。あのとき自分は東園寺家のお嬢様とキスをしている。触れるだけの軽いものだが、サイコにとってもタツオにとってもファーストキスだった。清き男女交際を標榜する軍国日乃元(ひのもと)ではその意味は決して軽いものではない。クニがふざけていう。 「今さ、サイコと丸美の胸について排水量を比較していたんだ。丸美が大和型戦艦とするとサイコは阿賀野型巡洋艦クラスかなって」  サイコの目が吊(つ)り上がった。ステンレスのトレイをまっすぐに振りかざし、クニの頭の天辺に叩(たた)きつける。澄(す)んだいい音がした。周囲の生徒がみなこちらのテーブルを見つめている。
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