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 屋上では養成高校の吹奏楽部が威勢のいいマーチを奏でている。塔屋の通用口を抜けて小太鼓(こだいこ)とホルンの音が行進のリズムで響いてきた。踊り場の正面はガラス張りで広々としたグランウンドが一望できた。校庭ではラグビーの親善試合が行われ、分厚い身体(からだ)の少年たちが肉弾戦を繰り広げている。  タツオは階段の途中でこちらに背を向けて踊り場に立つサイコの姿に気づいた。白いガウンが透けて、ほっそりと引き締まった脚がつけ根近くまで見えている。しばらくタツオはステップで立ち止まり、サイコの後姿の素晴らしいバランスで目を楽しませた。テルと同様カザンとの死闘を控えているのだ。これくらい幸福に溺(おぼ)れてもいいだろう。  気配(けはい)に気づいたサイコがさっと振り向いた。 「さっきから、そこにいたの?」 「いや、今ついたところ」
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