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「……う、ううん……」
目覚めると、そこはほとんど光の無い真っ暗な空間。そして、息つく暇なく聞こえてくる誰かの呻き声。
参ったな、早いとここの場を離れないと……。
「わぷ!」「ギャン!」
そう思ったのも束の間、俺の身体は何か大きな物に押しつぶされた。
ってか、『ギャン』って……。どっから出たんだ、こんな声。
「あ、かわいい……」
そうして逃げ出す間も無く、俺の身体は何か、いや、誰かに『首の後ろをつまみ上げられた』。……どうやら俺は、とんでもないミスをやらかしちまったかもしれん。
こんな真っ暗な状態でも周りがよく見えるのは、おそらくこの姿のせいだろう。親猫に連行される子猫の様な気分を味わいながら自分の身体を見回す。
赤茶けた6本の尻尾はクルンとカールしていて、腹部は白く、それ以外の身体は炎の様に紅い体毛に覆われている。俺の記憶が正確ならば、その体長は60cm程しか無いはずだ。
なんだって俺はこんな姿に変化しちまったんだ。敢えて名前は出さないが、コクリから変化を習った所為で、変化と言えばキツネ、というイメージが刷り込まれちまったんだ、きっと。
「何の種類の魔物なんだろう?ウルフ系にも見えるけど……」
自分の失態を嘆く前に、まずしなければならない事がある。
『オウ、人の事下敷きにしといて一言目が、あ、かわいい、たぁ随分じゃねーか。あん?』
使えるかどうかは疑問だったが、どうやら前にいた世界の魔法は使えるらしい。《ボイス・リンク》で、目の前の俺をつまみ上げている男に声を届ける。
案の定どこから声がしているのか分からない様で、キョロキョロと周囲を見回しているが、残念ながら自分で答えを探す時間を与えるつもりは無い。
『おうおう、予想通りの反応ありがとう。だが残念。俺はここだ、ここ』
「ま、まさか……」
『おーぅいぇす。混乱するのも無理はねぇ。俺自身も状況を把握しきれてねーしな。わかってる事は唯一つ』
現実に怯える様にゆっくりと振り向いた目の前の男に向けて、立て続けに言葉を浴びせる。まあ自分で言うのもアレだが、こんなにカワイイ生物が普通の男性声で喋ってるなんて、認めたくねーわな。
『お前と会話している声の主は、この俺だ』
だが、そんなのは知ったこっちゃない。余裕が無いのは俺だって一緒なんだ。
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