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外じゃセミがみーんみーんと泣いている。
もう七月。はやいなぁ、夏休みにもう入るなんて。
「セミってかわいそーだよね。」
と、課題の英語のプリントを必死にやっていた私は、つい声を漏らしてしまった。
私の前に向かい合わせに座るひとりの少女に。
その少女は美しいウェーブがかったセミロングの金髪をなびかせ、静かにノートの空白をキレイな英語で埋めていた。
少女。というにはあまりに大人に雰囲気をまとい、でも儚げでどこかすぐにでも壊れてしまいそうな脆さがチラリと顔を覗かせる。
「なーに、マキシ?
ちゃんとプリントやらないと終わらないわよ?」
「あはっ、ごめんごめん!
ついついなんか、そう思っちゃって。
だって、ながーいあいだ寝てて、起きたら一週間で、はいさよーならーなんてさぁ。
‥‥もったいないなって。」
「ふふっ。そうね。
たしかにそうかもしれないわ。
でも、セミにとってはその一週間はとーっても輝かしいものかもしれないわよ?
ほら。時間制限って良くも悪くも影響あるでしょ?
セミにとって、一週間の限定期間はきっとすごく素敵なものなのよ。」
「ふーん‥‥エリアの考えることは深いなぁ‥。
というか、そんなことより私の時間制限はそれに比べてとても悪い影響だよー‥‥はぁ。」
と憂鬱に息を吐き出す私。
この英語のプリント、提出が今日の17時まで。
今の時間は16時27分。
「おわるかなぁ‥‥。」
「終わらせなきゃ、でしょ?
わからないとこは教えてあげるから早く終わらせましょ?」
「えー、でもな~。」
と、机に突っ伏する私。
「終わったら駅前のクレープ。」
その魔法のワードにびくっと反応する。
私はクレープが大好きだ。あのふわふわな生地に甘いフルーツ、冷たいアイス。
クレープには夢が詰まってる、と私はおもう。
「マキシ。よだれ、たれてるわよ?」
「はっ!!じゅるり。
えへへ、ごめんエリア。よーしがんばろーっと!」
「ふふっ、マキシは本当に可愛いのね。」
楽しく親友の五月雨エリアと談笑しながら課題をやっていた、いつもと同じ放課後。
こんな毎日が続くって
私はこのとき、信じて止まなかった。
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