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俺達がいるのは見たことのない木々に囲まれた窪地だ。
見たことがない、というより俺のいた世界には存在しないだろう。
白い幹に黄色の葉。
枝の先には白い実、というか、卵がぶら下がっている。
どう見ても先ほどまで俺達がいた魔王城の一室ではない。
おそらくはあの魔法陣が転移魔法陣だったのだろうが、通常転移は魔法陣から魔法陣に移動するものだ。しかも床や地面に固定されているもので、何人もの魔法使いが数日かけて作り上げるもの。
それを一人で作り上げて発動させた。
それもほんのわずかな時間で。
さすがは魔王というべきか。
もっとも本来知識はあっても魔王の魔力ではできない芸当だ。
俺と入れ替わった事で俺の身体に備わった魔力を使ったのだろう。
入れ替わりなど聞いたこともまして可能などとは思ったこともなかったが、人の身体に備わった身体能力や魔力を自由に使えるとなれば、それは非常に危険なものではないか?
たとえば今回は転移のために使ったようだが、もし俺の身体や魔力を使って街や村を襲ったら?俺のフリをして国王に近づき危害を加えることも、簡単。
しかも傍から見ればすべて俺がやったことになるわけだ。
__やっぱり、今すぐ殺しておくか?
「私を殺したら二度と元の世界には戻れんぞ」
「ああ?」
俺の剣呑な気配を感じたのか、魔王は緊張ぎみに身体を強張らせて言った。
「気づいておるのだろう。ここは私たちのいた世界ではない。異世界というやつじゃの。ちなみに戻るための魔法陣は私にしか作れない。なので私を殺したらそなたはもう二度と自分の世界には戻れなくなる」
確かに、俺にあの魔法陣が作れるとは自分でも思えない。
異世界、と言うのも嘘ではないだろう。
周りに生えている木々もそうだが、なにより世界に充満する魔力の質が違う。
俺達がもと居た世界と比べると、空気中に漂う気配はひどく希薄で変わりに地中の奥深くに魔力の基が凝縮されている感じがする。
「あれを見よ」
魔王は手を伸ばして一本の木を指し示した。
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