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その木は周りの木々よりも一回り大きな卵を枝の先にぶら下げていた。
ちょうど人間の赤ん坊が丸まってすっぽり入るほどの大きさ。
重みで細い枝の先が頼りなく揺れている。
今にも地面に落ちそうな……、と見ていると、ボトンと音を立てて落ちた。
落ちた衝撃にしては不自然に間を置いて卵の表面に幾筋かのヒビが入る。
ヒビはどんどん広がっていき、やがてパカンと軽い音を立てて。
卵が割れた。
「なんじゃありゃ」
思わず呆れ声が洩れる。
いや、正直予測はしてたんだよ。
見た目どう見ても卵だし?なんか生き物が生まれちゃたりするんじゃないの? とか。
思ってましたけどね。
割れた卵から出てきたのは、おそらく鳥らしく見える生き物だった。
鶏そっくりの赤いトサカにずんぐりとした胴体。
その両脇には飛べるの?と突っ込みたくなるような短い羽根が生えている。
ピンク色の全身にくるりと巻いた短いしっぽ。
特徴的な、鼻。
まあ簡単に説明すると。
頭に鶏のトサカが、胴体の両脇に小さな羽根の生えた、豚だ。
___うん。
はい。異世界ですね。
だって俺のいた世界は木に卵はできないし、豚にはトサカも羽根もありませんです。はい。
てか、あれは鳥なのか、それとも豚なのか、どっちなのだろうか。
いや、羽根が生えてるんだから、鳥なのだろう。
たぶん。
「どうじゃ?異世界だと納得したか?」
「……いや、それはわかってるんだけどね」
ふふん、と胸を張って見上げてくる魔王の姿がちょっとかわいい、とか思ってしまった。
いやいやいや今そんなこと思ってるばあいじゃないだろ、俺。
しかも、こいつは敵だし。
そう、敵のはずだ。
魔物や魔人を操り、人を村を町を国を襲い、二つに国を壊滅せしめた悪の権化。
__の、はずなんだが。
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