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なんだかなあ、と内心頭を掻く。
なんというか、そうは見えないのだ。
見た目もあるが、何より魔王からは悪意と言うか、邪気と言うか、血なまぐささというか、そういったものを一切感じない。
一応人__って人ではないが__を見る目はそれなりにあるつもりだ。
演技にはそうそう騙されはしない。
その自信もある。
魔力がほとんど感じられない事といい、この少女が魔物たちを従えて人を襲っていた魔王だとは、どうにも思えない。
「で?」
「む?」
「だから、人をこんなとこに連れてきて、どうするつもりだ?」
殺すのが目的なら、入れ替わっている間に何なりとできただろうし、わざわざ異世界に連れてくる意味もないだろう。
「うむ、じつはそなたに頼みがある」
「頼み?」
「父様が困ったときはそなたを頼れと言っておったのでな」
はあ、父様が……。
魔王の父親、前の魔王か?
いや、確か前の魔王は女性体だったはず。
そういえば前魔王は人とそれなりに共存を望んでいたのだったか。
魔物や魔人がまったく悪さをしないというわけではないが、今のように積極的に人の世を壊そうという動きはなかった。
少なくとも俺の聞いている限りでは、そうだ。
「ちなみに父様の名前はギルフォード・バルトスと申す」
へえ、ギルフォード・バルトスねえ。
ん?どっかで聞いたことがあるような……って!
「はあ?」
やべえ。めちゃくちゃ間抜けな声がでたぞ。
聞いたことがあるなんてものじゃない。
ギルフォード・バルトス。
俺の前に勇者と呼ばれてた人。
でもって、ガキん時から一緒に住んで俺に世の中のことも戦いのこともすべて教えてくれた、俺にとって親代わりだった人。
師匠。
「師匠の娘?」
唖然として、魔王を見下ろす。
師匠は常に無精ひげの厳ついおっさんだ。
俺と同じで魔法よりも肉体強化しての殴り合いが得意で、筋肉大好き人間だった。暇さえあれば肉体改造に勤しみ、夜中にこっそり半裸になっては己の胸筋をぴくぴくさせてニマついてたのでちょっと怖かった。
子供の頃は見てはいけないものを見てしまった気がして布団に中で寝たふりをしていたものだ。
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