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よう、カイト。
元気か?
って、手紙かよ。しかも俺宛てみたいだし。
<よう、カイト。
元気か?
お前がこの手紙を読んでるってことは、俺は多分しくじったんだろうな。
悪いな、急に居なくなって。
まあお前ならもう勝手に一人で強くなってるだろう。
この手紙を読んでるって時点で、少なくとも魔王のもとに辿り着いてるってことだしな。
もう本人から聞いてるかも知れないが、魔王は俺の娘だ。
可愛いだろう?
嫁に似て巨乳だし。
その昔勇者だった俺は魔王がどんな奴か見極めるべく面会した。
その頃は魔族も魔王も特別人間と争ったりしてはいなかったが、まあ、確認だな。この先もちょっかい出してこないような奴か。
で、一目惚れしちまったわけだ。
俺の惚気には興味ないか?
このところ魔族の動きが妙に好戦的になってる。
今にもどこかの国に戦争を仕掛けそうな具合だが、女房も娘も決して人間に害を及ぼす筈がない。で、俺は女房の側近の一人に接触することにした。
気になるのは、娘が成人したことだ。
成人と同時に魔王の地位と力も継承したはずだが、どうも魔族がきな臭くなってきたのと時期がかぶりやがる。
俺は女房と娘を信じる。
あの二人が人間に敵意を向けるはずがないんだ。
おそらく継承の儀で何かあったんじゃないかと俺は睨んでる。
これから俺は魔王城に向かう。
この手紙は俺に何かがあった場合、娘の元にこっそり届けてもらうようになってる。預けるのは魔族だが旧知の仲だし、何とか届けてくれるだろう。
カイト、頼む。
この手紙を娘が持ってるってことは、俺は多分死んでる。
俺の代わりに娘を助けてやってくれ。
厄介ごとを押し付けて悪いが、頼む。 >
はあ、とため息をついて手紙を閉じる。
放り投げるように返すと、魔王は宝物でも扱うみたいに丁寧に畳み直し、また胸元の銀貨の内に戻してしばらく大事そうに握りしめていた。
もしかするとあんな紙切れでも魔王にとっては数少なく父親の形見なのかも知れない。今の魔族と人間に関係で元勇者の物を大っぴらに持っておくのは難しいだろう。
たとえ、父親だとしても。
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