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突然意気揚々と屈伸を始めた俺にビビアンの怪訝そうな視線が突き刺さるが気にしない、気にしない。
俺は入念に準備運動をすると、ぐっ、と腰を落として跳躍した。
一気に五十段ほどの距離を飛び超え、足が階段に付いたところでまた跳躍する。それを4回程繰り返した。
最上段に辿り着くと、踊り場程度の狭い空間の先に巨大な扉がある。
階段と同じ漆黒の石でできているらしい扉は何も模様はなく、取っ手もない。
「ちょっとー!何一人で勝手に先行ってるのよ!」
はるか下方から怒鳴り声が聞こえる。
ん?
他の皆のことなんて何も憂慮してなかったけど。
そっか、凡人にはマネできない事をしちゃたんだね。
キミ達じゃあせいぜい十数段跳べるかどうかだよね。
でも待ってるのも、正直怠いなー。
うーむ、と少しだけ考えて、俺はまだ三分の二程度の位置にいる仲間達に大きく手を振って言った。
「わりっ!先行ってるわ!」
「はあっ!」
「何アホなこといってるんですか、こんなところで!」
「……ほんと、じゃあ着いた頃には終わってるかな。終わってるといいな」
「ちょっ、マジで待ちなさいよ!」
「そうですよ!待って下さい!」
「気をつけて。頑張ってねー」
喧々囂々。
焦りと怒りの混じった怒鳴り声が聞こえてくるが無視。
一人へたれなのも混じってるが、いつものことだ。
あんたもいい加減にしなさい!と叱りつけている声を背に聞きながら、俺は扉の前に立った。
両手をつき、ゆっくりと力を入れる。
大きさから想像するよりも扉はずっと軽く、音もなく開いた。
広い何もない部屋。
がらんとしていて味気ないくらいだ。
豪奢な王城の謁見の間とは大違い。まったく調度品の類も飾りの一つもないというのは、ちょっと意外。
だって、魔王だし。
もっと派手で悪趣味な部屋を想像してたね。
明かりはないが、部屋中の壁がぼんやりと光っていて何とか先が見渡せる。
まあ真っ暗でも俺の目は見えるんだけど。
部屋の最奥。
二段分高くなった床に据えられた玉座に、魔王は悠然と座っていた。
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