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魔王はゆっくりと俺の前へ歩いてくると、ぶつかる寸前で立ち止まる。
その背は俺の肩辺りまでしかないので自然と俺が見下ろし、魔王が俺を見上げる形になった。
間近に見つめあう状態に、戦いの緊張感とは明らかに違う妙な緊張が湧き上がってくる。
このままでは違う意味で襲ってしまいそうなんですが……。
目が合ったまま、魔王が笑った。
その顔は造り物めいた容貌とは反して、無邪気、と言うか、とても可愛らしい印象を抱かせた。
洗髪料だろうか、柑橘系っぽい柔らかないい匂いがする。
細くて柔らかい腕が俺の頭に回され、ぐいっと少しだけ乱暴に引き寄せられる。同時に魔王の両足がつま先立ちをして。
そっと、唇が触れあった。
「……っ!」
__瞬間、身体中を電流が駆け巡る。
比喩ではなく、現実に。
衝撃に一瞬意識が真っ白になった。
次の刹那には俺の身体は反射的に反撃を仕掛ける。
はずだった、が……。
なんだ?
なにかがおかしい。
それもとんでもなく。
おかしい。
って、なんだこれ!
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。
いったい何がおきてる?なんで、俺は床に倒れてるんだ?
俺は床に倒れてる。背中にはっきりと床の感触がある。
なのに、なんで。
なんで俺が目の前にいて、宙に浮かんでるんだ?
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