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それは確かに俺だった。
床から10センチ程浮かんだ状態で、両手を顔の前にかざし、軽く首を傾げている。
「うむ」
何かに納得したように頷き、手を肩幅に開いて床に手のひらを向ける。
「いけそうだな」
つぶやきとともに床にいくつもの線が浮かび上がった。
きらきらと白く輝く線が円形の魔法陣らしきものを描き出していく。
らしき、というか魔法陣なのだろうが、俺は見たことがない紋様だ。
召喚の魔法陣に似ているように見えるが、より複雑で難解。
とてもではないが俺に扱えるものではない。
魔法陣魔法は俺の苦手な分野だ。
というか魔法全般が苦手なのだが、普段使用しているのは肉体強化くらい。
だというのに、俺の顔で、俺の身体で複雑怪奇な魔法陣を作り出されているというのは、なんだか妙な気分がする。
そうあれは間違いなく模造などではなく俺自身だ。
わかる。
俺の身体だ。
ではここに転がっている俺は、誰なのか?
俺だ。
けど、身体は。
俺はゆっくりと腕を持ちあげた。
あぁ、やっぱり。
細くて白い柔らかそうな腕。
小さな手指。
魔力のほとんど感じられない身体。
__魔王か。
どういうからくりかはわからないが、どうやら俺と魔王の身体が入れ替わっているらしい。
魔法陣が完成して、視界が光でいっぱいになる。
眩しさに目を閉じた俺は、魔王の笑含みの声を確かに聞いた。
「少し借りたぞ」
あほう。
他人の身体を借りる時は先に了承を得てからにしろ!
俺の主張は至極まっとうなもののはずだ。
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