第2章

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『その調子じゃなにも知らないんだね、柴田くん』 ぎし、と音を立てて俺の横になっているベッドに芦屋先輩が腰をかける。 『なにもって、』 『そうだなぁ、例えば次郎くんが中等部生徒会の補佐をやってたこととか、その時の会長が僕で次郎くんと恋人だったってこととか 知らないでしょう?』 芦屋先輩の静かな声が現実味を帯びていて、それらが本当なのだと胸を刺す。 中等部生徒会の補佐? 芦屋先輩の恋人? だって次郎は、ノンケなんじゃないの? 女の子が誰よりも好きなんじゃないの? 『信じられないかな? こないだ南条では文化祭やってたんだけどその時次郎くんに久しぶりに会ったんだよね』 『文化祭…』 そうだ、確かにそういえば文化祭をするというメールがきていた。 その時に芦屋先輩が帰国していたことも覚えてる。 『次郎くん、どんどん綺麗になるね。今こうやって離れてるのが惜しいくらい。 綺麗で、でも相変わらず脆い。それでなによりも彼は色っぽいよね』 そういって同意を求めるように首をかしげた芦屋先輩が意味深に目を細めた。 『……先輩、次郎になにかしたんですか』 『やだなぁ、睨まないでよ柴田くん。 元恋人同士が再会してお互いに求め合うことは不自然なことではないと思うよ。』 嘘だ、と大声をあげたい。 でも、できない。 妙に現実味がある。 しかもこのひとは気づいている。俺が次郎を好きだってことを。 『なんで別れたか知りたい?』 『…』 『僕がね、身を引いたんだ』 もう聞きたくない このひとは、俺以上に次郎を知ってるっていうのがひしひしと伝わってくる その人の笑顔がそれを全面に出してくる 『次郎くんはいいところのご子息だしね、将来を考えたら同性と恋するなんて彼のためにならないでしょう? ねぇ柴田くん、君はさ、次郎くんのことを本当に考えて行動したことってあるの?』 キャパシティオーバーになりそうだった。芦屋先輩の人懐こい優しい笑みが、さらに濃くなって、 『ちゃんと考えてみようね』 全部の心が胸につきささった。
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