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『ゼン、センパイに全部聞いちゃったんだけどさ、』
芦屋先輩に次郎とのことを聞いた晩、リオが部屋にやってきた。
戸惑いを浮かべていたリオの面影はもうなくて、
無邪気な笑いではなくリオは作り物みたいに貼り付けた笑顔をしていた。
『オレは許せないよ、ゼン』
『…っ』
一気に間合いを詰めたリオは一枚の写真を出して、それをかかげた。
『そ、れ』
『これ、ゼンのだよね?ゼンが大切そうに持ってたやつだよね?
このひとがジロー?』
そうだ、写真
一枚だけ持ってきた次郎の写真。
ごろごろ幸せそうにベッドに転がる次郎を冗談半分で撮ったものだ。
『リオ、それ返して、』
『綺麗なひとだね、ゼンだけじゃない、センパイもこの人が好きなんでしょ?』
その写真しかない
その写真しか俺には、次郎を感じるものはない
だからその写真だけは手放したくない。
取り上げようと手を伸ばすがサッと背中に隠されてしまった。
『ねえ、オレね交換留学に応募したんだ。
もうちょっとでゼンの留学が終わるでしょう?オレもゼンと一緒にジローってひとのいる学校に行くつもりなの。
どうかな?』
リオが何を考えてるのかなにもわからなかった。
ゼミで出会って、普通に仲良くなったリオは明るく元気なイメージで、
目の前で仄暗い光を瞳に灯してどろりと笑うこの少年は誰なのだろう。
『リオが許せないのは俺なんじゃないの?』
キスしたから。
誰だって嫌に決まってる、男にキスされた上にそれが誰かの代わりだったとしたら。
『そうだね、だけど誰よりも』
リオはただゆっくり、にっこり笑った。
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