第1章

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side柴田善 強張っていた次郎の体から徐々に力が抜けていくのがわかった。 くたりと俺によりかかり、相変わらず細くて白い手が遠慮がちに俺のシャツをきゅっと握りしめている。 「…ん、ん」 嫌がる素振りもなく、ただ俺を甘受するように舌を絡め、時折鼻にかかった甘い声を出す次郎は以前となんら変わりもなかった。 朝からリオの周りで一悶着あったらしい。それに次郎が巻き込まれたらしい。 久しく会った俺の親衛隊長が焦ったようにそれを伝えてくれた。 それを聞いた上に、一限になかなか来ない次郎。 腰を上げた理由は最近さらに細くなった彼が心配だったのと なにより近い距離に行きたくて、触れたくて。 部屋にいなかった次郎は、二限が始まったくらいの時間にひょっこり帰ってきた。 それはそれは痛々しい泣き顔で。 最近俺が避けていたことに敏感だっただろうに、そんなことも気にせずに縋るように身を寄せる次郎にひどく欲情した。 なにがそんなに次郎を揺すぶったのだろう よっぽどのことが無ければここまで脆くならない彼が、まるで子どもみたいに脆い。 いつ聞こうなんて思っていたら俺に謝り始める次郎。 そうじゃない、そうじゃなくて。 なんで次郎が謝ってるの 負担って、なにそれ。 次郎はなにひとつ悪くない 俺が、次郎を好きなことが全ての元凶なのに。自己嫌悪でイライラして、乱暴に次郎の顎を掴めば次郎が怯えたように目を開く。 ああ、やってしまった、と思った。後悔が募り、爆発するんじゃないかというところで今度は俺が顎を掴まれた。 「寂しいんだからね」 その言葉に目を見開く。 寂しい? 「それくらいわかってよ、」 そんなことをいう人だったっけ。 そんな、今にも涙をこぼしそうな顔で、 そんな素直に 「善ちゃんのばか」 強がりで、どんなに苦しくても口に出してくれなかった次郎が 泣きそうに顔をゆがめて「寂しい」と言う。 ばかだなぁ次郎 そんな期待させて煽るようなこと言ってさ、 「ばかはどっちなの、次郎」 溢れたのは純粋な愛情 ただただ、愛おしいと思った。
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