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暫くして、笑顔で話していた彼女が電話で席を立った。
俺はそれを笑顔で送り出すと、再び外を眺めた。
そして後悔する…。
「ミナリ……?」
自分にしか聞こえないほど小さく呟いた名前は、とても情けなく俺の胸に響いた。
道路の向こう側に見えたのは、塾で確かに俺の隣に座る彼女で…。
でも、その笑顔は俺の知っているものとは違う笑顔で…。
隣にいるのも、俺でないメガネをかけ誠実そうな男…。
「アレが、例の彼氏か…。」
俺は急に、胸が苦しくなった。
関係ないはずだろ?
彼奴が誰と付き合おうと…。
自分にいい聞かせて、胸の痛みを抑え込もうとする。
苦しいなら、目を塞げばいいのに…。
それでも俺は、二人の姿が消えるまで目が離せなかった…。
「彼奴も、女らしい顔するんだな…。」
呟いて笑った…。
笑ってるつもりだった…。
「ただいま!!夏祭りの話伝えといたよ!!」
「えっ?あ、あぁ…。」
帰ってきた彼女に、俺は戸惑いながらも笑顔を向ける。
しかし、席についた彼女は不思議な表情で俺を見ていた。
「涼太…どうかしたの?」
「何がだ?」
「だって…涼太…。」
「うん?」
「苦しそうな顔してる…。」
「………。」
女って…変な所で勘がいいんだな。
「何もねぇよ!!」
そう言って頭を撫でれば、彼女は赤い顔をして納得したように笑った。
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