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──
拠点にしていたリンゴの木の下で、僕は目を覚ました。空は既に暗く、星が瞬いている。
「え……あれ……?」
なんでこんなところで寝ているんだろう、と考える。
「あ、起きた」
すると、足下の方から声が聞こえた。頭を上げて、そちらへ視線を向ける。
「痛ぅっ……!」
しかし、走った痛みに僕は頭を手で抑えて再び下ろした。
柔らかい布地が手に触れる。これは、まさか包帯だろうか。
「大丈夫?」
そう言いながら僕の顔を覗き込んでくるのは、目をパチパチとさせた賢十。
次いで、反対側からも声が聞こえる。
「あんまり動かない方がいいわよー。結構酷くやられてるみたいだから」
頭の痛みに顔をしかめながら、そちらを向くと、そこには焚き火のような物の前で何やら焼いている先程の女性がいた。
しかし先程とは違い、僕らと同じように剣、鎧を装備している。何故か盾は着けていない。
「えっと……?」
何と話しかければいいか分からず言葉を止めていると、女性が手を止めてこちらに近付いてきた。
「桐原 問……で大丈夫よね。あたしは浜川 燐。……よろしく」
そう言って、少し躊躇い気味に手を差し出してくる。
「え……あ……ああ。よろしく……お願いします……」
僕も手を差し出し、出された手を握る。すると、浜川 燐と名乗った女性は少しホッとした顔をする。
「……?」
意味が分からずにいると、燐さんは頬を人差し指で掻きながら目を逸らす。
「あの……ごめんね。さっき」
「へ……?」
「……あの……襟首掴んで引き倒した事」
「え……あ、ああ……」
言われて、なんでこの燐さんという女性が萎れた顔をしているのか分かった。
「……あたしも切羽詰まってたっていうか……凄い怖かったっていうか……とにかくごめん……」
「い、いや、僕もあれ見た瞬間逃げ出しちゃいましたし……」
燐さんの気持ちはとても分かる。というか、目の前にあんなのが現れて立ち向かおうと思える方がむしろおかしいのだ。
「まー、二人ともおあいこって事だね。いつまでもそんなんだと楽しくないから、さっきの事は水に流しちゃおう」
そのおかしい奴が再び僕と燐さんの手を取って握手させ、そしてブンブンと振る。
「はい。なーかなーおりー、っと。OK?」
首を傾げて聞いてくる賢十に思わず僕と燐さんは軽く吹き出した。
そして、お互いに見つめ合うと僕と燐さんは同時に頷く。
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