─三年前─ 名も無き草原のどこかで。

18/21
前へ
/594ページ
次へ
不意に、焦げくさい匂いが漂ってきた。 眉をひそめると、ハッとしたように賢十が焚き火の方を向く。 「り、燐姉!! お肉焦げてる!」 「へっ? あっ! ああーーーーっ!」 賢十の声で振り向いた燐さんは、慌てて焚き火の方へ戻って、先程焼いていた何かを急いで回収して、傍に置いてあったバックラーに乗せた。 盾が皿扱いだ。そうか、そういう使い方もあったのか。 恐らく、僕には出なかったであろう発想に感心していると、燐さんがこちらにそれを持って戻ってきた。 顔が苦笑いになっている。 「あ、あははは……結構焦げちゃった……」 賢十が皿(盾)を覗き込みつつ、言う。 「……このくらいなら大丈夫じゃない? まだ一杯あるから、良かったら全部ボクが食べようか?」 「よしよし。賢十、アンタの優しさは十分染みたから大丈夫よ。ちゃんと自分で処理するから」 目をパチパチとさせながら言う賢十の頭を撫でながら、燐さんは肩を落として皿(?)を見つめる。 「ち、ちょっと見せてもらってもいいですか?」 手を伸ばす僕に、賢十が皿の上から一つそれを掴んで手渡した。 丁度良い長さの木の枝に、何やら黒っぽい物が刺してある。 串焼きのようだ。 僕は串焼きを口もとに寄せると、食らいつく。 「「あ……」」 黙々と固くなった肉を咀嚼すると、なんとも言えない苦味と肉の旨みが口の中に広がる。 食べられないほどじゃない。何より、だいぶ寝ていたようでお腹が空いていた。 十分に咀嚼すると、それを飲み込む。 「うん……美味しいですよ」 「アンタ……あのね……」 燐さんが呆れた様子で僕を見つめる。 「どれどれ」 そこに横から手を伸ばした賢十が二本目の串焼きを手に取って、肉片を一つ口に入れる。 もぎゅもぎゅと口を動かして一言。 「あ、美味しいね」 飲み込んだ賢十は二つ目の肉に食らいついて、黙々と食べ始める。 燐さんは、しばらく呆れた表情だったが、皿の上の串焼きを見ると、手に取って小さく噛みつく。 もくもくと咀嚼して、飲み込む。 「…………」 そして溜息を吐くと、黙って残りを食べ始めた。 それから僕達はひたすら食事に没頭した。 食事と言っても、串に刺された焦げた肉を黙って胃の中に運ぶ作業に過ぎないが。
/594ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加