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不意に、焦げくさい匂いが漂ってきた。
眉をひそめると、ハッとしたように賢十が焚き火の方を向く。
「り、燐姉!! お肉焦げてる!」
「へっ? あっ! ああーーーーっ!」
賢十の声で振り向いた燐さんは、慌てて焚き火の方へ戻って、先程焼いていた何かを急いで回収して、傍に置いてあったバックラーに乗せた。
盾が皿扱いだ。そうか、そういう使い方もあったのか。
恐らく、僕には出なかったであろう発想に感心していると、燐さんがこちらにそれを持って戻ってきた。
顔が苦笑いになっている。
「あ、あははは……結構焦げちゃった……」
賢十が皿(盾)を覗き込みつつ、言う。
「……このくらいなら大丈夫じゃない? まだ一杯あるから、良かったら全部ボクが食べようか?」
「よしよし。賢十、アンタの優しさは十分染みたから大丈夫よ。ちゃんと自分で処理するから」
目をパチパチとさせながら言う賢十の頭を撫でながら、燐さんは肩を落として皿(?)を見つめる。
「ち、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
手を伸ばす僕に、賢十が皿の上から一つそれを掴んで手渡した。
丁度良い長さの木の枝に、何やら黒っぽい物が刺してある。
串焼きのようだ。
僕は串焼きを口もとに寄せると、食らいつく。
「「あ……」」
黙々と固くなった肉を咀嚼すると、なんとも言えない苦味と肉の旨みが口の中に広がる。
食べられないほどじゃない。何より、だいぶ寝ていたようでお腹が空いていた。
十分に咀嚼すると、それを飲み込む。
「うん……美味しいですよ」
「アンタ……あのね……」
燐さんが呆れた様子で僕を見つめる。
「どれどれ」
そこに横から手を伸ばした賢十が二本目の串焼きを手に取って、肉片を一つ口に入れる。
もぎゅもぎゅと口を動かして一言。
「あ、美味しいね」
飲み込んだ賢十は二つ目の肉に食らいついて、黙々と食べ始める。
燐さんは、しばらく呆れた表情だったが、皿の上の串焼きを見ると、手に取って小さく噛みつく。
もくもくと咀嚼して、飲み込む。
「…………」
そして溜息を吐くと、黙って残りを食べ始めた。
それから僕達はひたすら食事に没頭した。
食事と言っても、串に刺された焦げた肉を黙って胃の中に運ぶ作業に過ぎないが。
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