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「ねぇ、弥生さん。『ラグナロック』の本拠地までは、あとどのくらいあるの?」
「ん?」
ぎゃあぎゃあとやかましい隣を気にせず、マイペースに食事を進めていた少女に僕は問いかける。
『ラグナロック』というのは、この世界で数少ない数十万人規模の大きなチームの一つだ。
人が集まりすぎて、ほとんど更地だったこの世界に「都市」と呼んでも良いくらいの大規模な集落を作ってしまった。
世界の終焉、なんて物騒なチーム名の割にチームメンバーは基本的に平和思考で戦いを嫌い、周りのチームもその規模に怖気付いて手を出せず、衛兵が街の周りを見張っているのでモンスターも通さないという、この世界で最も安全な区域と言っても良い場所だ。
「……どうだろうね。地図がテント内のバッグの中だから不明瞭ではあるけど、大体三日というところかな」
箸の先を唇で咥えて思考した後、彼女は夕食に手を伸ばしながら言う。
「途中、色々と危険なスポットがあると言えばある。ここも盗賊出没注意の区域だ。今晩あたり襲われたっておかしくはない」
その言葉に、四葉が反応する。
「えっ……でもこの辺りって『ラグナロック』の本拠地の近くですよね……? なんで……?」
「奴らは『平和主義』だからね。自らに害を成さない者には寛大なんだろうさ。リーダーの性格からして、とっ捕まえても処刑はしないし、牢屋にぶちこんでおくにも食費と言う名のコストがかかる。その規模もあって盗賊も『ラグナロック』にはビビって手を出さない。放置安定ってわけ」
弥生さんは、嫌味な笑みを四葉に向けた。そんな弥生さんに僕は言う。
「弥生さん、言っとくけど『フラグメント』の基本方針も"殺し"は無しだからね」
四葉から僕へ視線を移し、弥生さんは言う。
「分かってる。甘ちゃんなリーダーに着いていくと苦労するよ、全く……」
溜息を吐いて、呆れたように首を振る弥生さん。
そう言われると心苦しいが、チームメンバーに人殺しをさせたくないというのは、僕も認める僕のエゴだ。甘ちゃんという言葉に反論はしない。
しかし、弥生さんはそんな方針に文句を垂れつつも応えてくれる。
本当に頼りになる指揮官だ。
「……それで、他の危険なスポットは?」
「一回、橋で大きな川を横断する。挟み込まれたら越えるのが大変だね。まぁ、流石にそこには衛兵もいるだろうけど。あとは……」
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