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「まぁ、一言で言っちゃえば、『伝説の魔剣』が山頂にある。なんて、根も葉も無い噂話さ。選ばれし者が手にすれば最強の力を得るが、それ以外の者が使えば命を縮めることになる、なんてね。馬鹿らしいだろう?」
弥生さんは苦笑いをする。
「……最強の力?」
「ああ。武器固有スキルが付加されているとか何とか。……でも、そもそも武器固有スキルなんてこれまで一度も確認されていないし、ドラゴンが巣食ってるらしくて山頂まで登れた奴もいない。ただの噂だよ」
「ふぅん……」
最強の力、武器固有スキル。もし、それがあれば僕もスキルを使えるようになるのだろうか。
僕も戦えるようになって、みんなの足手纏いにならなくて済むのだろうか。
「で、途中でその山の近くを通るんだけど、たまに手強いモンスターが麓に下りてくることがあるらしい……そのくらいかな。まぁ、その近くで野営するつもりは無いし、大丈夫だとは思うよ。……ってリーダー、聞いてる?」
「…………えっ? ご、ごめん、考え事してた」
うつむいて考えこんでいた僕は、呼ばれて慌てて顔を上げる。弥生さんは顔をしかめる。
「おいおい……。もしかして、『魔剣』について考えてた?」
なんでこう人の考えを読むのが上手いんだ、この人は。
「……う、うん」
「まぁ、確かに本当にあったらリーダーにとっては魅力的な代物だろうね。でも、ただの噂だから」
眼鏡の奥からドライな視線を投げかけ、弥生さんは切り捨てる。
「そんなものあるはず無いし、あったとしてもドラゴンやらワイバーンやらがうじゃうじゃいる山なんか危険過ぎて登れない。登らせられない。ていうか、そんなもの無くてもウチらは強い」
ビシッと僕を指差して、堂々と言い切る弥生さんに、僕は苦笑いを返す。
その「ウチら」に僕は含まれてはいないと分かっているから。
「……問さん?」
傍らの四葉が、僕の服の袖を摘んでこちらへ視線を向けてくる。その瞳は不安そうだ。
「何? 四葉」
「え、えと……その……あの……」
聞くと四葉は何やら顔を赤らめてオロオロとし始め、視線があちらこちらに移動し始める。
遂には、掴んでいた袖も離した。
「……や、やっぱりなんでもないです!」
「…………?」
僕は訳が分からず、首を傾げる。
助けを求めて弥生さんの方を向くと、彼女は既に素知らぬ顔で食事に戻っていた。
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