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──
黒から群青色へのグラデーションに染まる肌寒い明け方の時間帯。
僕はキャンプ地から少し離れた平地で、剣を振っていた。
ズシリと重く、自らの手に最もよく馴染んだ文典さんお手製のブロードソードでの素振りだ。
もう既に相当数こなした素振りのおかげで、体は温まりきっている。
二百を数えた所で素振りを止めた僕は片手剣を構えなおして、心地いい集中力の中、想像する。
目の前にいるのは僕と同じ体格くらいの剣士。ツーハンド(両手持ち)の長剣を片手で持ち、僕と同じようなバックラーと軽量のチェインアーマー(鎖でできた鎧)を装備している。
「ふっ……」
僕は地面を踏み蹴って幻影の剣士に斬りかかる。剣士は余裕の表情で盾を使って僕の剣を受け止め、長剣での一撃を繰り出してくる。
僕はその剣を辛うじて盾で流し、威力を逃がすと同時にそのまま飛び退いて間合いを取る。
今度は剣士が僕に斬りかかる。軌道を読み、剣で受け流し、懐へ。
「せぁっ……!」
盾を構え、体当たりを敢行する。
しかし、ドンッ! と巨大で重量感のあるゴムの塊の突進したような感覚と共に正面から受け止められる。
剣士の口角が、ニヤリと引き上がった。
その笑いに戦慄を覚えた僕は飛び退き、体勢を整える。
剣士がスキル名を発した。
彼のスキルは自らの筋力、スピード、耐久力、反射速度を短時間だけ強化することができる。
淡い輝きを身に纏い、剣士は猛烈なラッシュを僕に浴びせかける。
「ぐっ……!」
歯を食いしばり、怖気付いて逃げようとする足を無理矢理地面に釘付け、僕は下がらずに攻撃を躱す。
降り注ぐ剣を躱し、捌き、受け流す。
そして、遂に、
「…………────ッ!!」
剣士の剣が僕の心臓を捉えた。
冷たい刃が体を貫き、体の中央に痺れるような痛みが──。
「────……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
僕は手を膝につき、滝のように流れ落ちる汗を服の袖で拭う。
また、負けた。
重い剣をだらりと地面に下げて、僕は息を整える。あの幻影の剣士とは幾度となく戦いを繰り広げているが、まだ一度も勝てていない。
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