道中、盗賊注意

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「よぉ、朝っぱらから精が出るな」 額からこぼれ落ちる汗を拭い、声のした方を振り向く。 そこには地面から突き出た岩に座り、膝に頬杖をついてこちらを眺めている戒斗がいた。 盾は岩の近くに立てかけられている。 僕はブロードソードを鞘に戻し、息を整える。 戒斗が呆れたような表情を浮かべながらこちらへ歩いてくる。 「誰と戦ってたのかは知んねーけど、また装備解除して訓練かよ。ご苦労なこって」 「何か問題ある?」 「いや、ようやるもんだと思ってるだけ」 僕の近くで立ち止まり、肩を竦める戒斗。僕は顎から滴る汗を拭う。 「まぁ……習慣っていうか、クセみたいなものなんだ。やらなきゃ気持ち悪い」 「それは、あの戦争の頃からのか?」 「ん……うん……そんな感じ……」 あの戦争、それは未だ語られる名もない、この世界で一度だけあった戦争を呼称する時に使う。 僕達のいるこの大陸には、約五百万人ほどの『転生者』がいることがわかっているが、かつて(と言っても精々、1年くらい前までの話なのだが)大陸は違った目的を持つ者たちで二分されていた。 一方の名は『帰還派』。僕達の住んでいた、以前の世界への帰還を目指す者達だ。 現在、僕達『転生者』が元の世界へ帰還する唯一の方法として全人類に知られている一つの方法がある。 別段、内容は難しいことではない。至ってシンプル「『転生者』が全員同じチームに加入すること」。 そう。この大陸に存在する全ての人類が一つになること、それが元の世界へ帰還する唯一の方法とされる。 内容は実に簡単だ。しかし、実行に移すことが難しい。何故なら、この世界に留まりたい人達がいたから。 元の世界へ帰る事を拒否し、この世界で生きようとする者達、彼らは『残留派』と呼ばれる。 『残留派』には、前の世界で複雑な家庭環境にいた人や、この世界で力を手に入れ、それを手放したくない人。しまいには牢屋の中にいたような人達まで含まれている。 所々で小競り合いが起きていたこの二つの派閥だったが約二年前、遂にお互いを相手にした大戦争が勃発する。 『帰還派』は元の世界に帰る為に、『残留派』はこの世界に留まり続ける為に。 戦争は当時、『帰還派』九対『残留派』一という圧倒的な物量差から『帰還派』のチームの大虐殺にて幕を閉じるかと思われた。
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