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「みんなっ、フォーメーションA!」
「了解っ! 《プロテクション》!」
弥生さんの声に、戒斗がスキル名を発しながら前に躍り出る。
僕達全員の体を光の防護膜が包み込んだ。
フォーメーションAとは、事前に打ち合わせた緊急事態における基本陣形の一つである。
そう。僕達は今、緊急事態なのだ。
現在、僕達『フラグメント』は『ラグナロック』の本拠地へ向かって森の中の街道を進行中だった。
地元の『テイマー』から譲ってもらった馬二匹で馬車を引いて移動していたわけだがそんな折、森の中から盗賊の集団が現れたのである。
二つのチームがお互いの望みを叶える為に殺し合ったあの戦争の終結を皮切りに、人類は様々な派閥に別れた。
その中でも、『帰還派』から分離した『消極的残留派』の数はその四十パーセント以上を占める。
根っからの『残留派』とは違い、この世界に残りたい訳ではないのだが、帰る目処が立たないことからこの世界で生きていくことを覚悟した人々だ。
僕達が向かっている拠点を統べているチーム『ラグナロック』もその一つ。
『消極的残留派』には『ラグナロック』のように独自のルールを持ち、秩序ある生活を送っているチームもあれば、盗賊となり旅人や冒険者を襲うようになってしまったチームもある。
僕達に襲いかかってきているこのチームのようにだ。
「かかってこい、負け組っ!」
肉食獣のように犬歯を剥き出しにして戒斗が挑発する。
フォーメーションAの陣形は前方を戒斗が担当、左右翼をそれぞれ燐姉さんと文典さんが。
そして僕と四葉は後方へ、弥生さんが司令塔として中央に位置する。
「《ベクター》!」
陣形が整った所で弥生さんがスキルコマンドを発声するとワンドを向けられた、既に戒斗に斬りかかっていた盗賊達が纏めて三人ほど吹き飛ばされる。
《ベクター》は、指定した物体に力と方向を与えるスキルだ。
弥生さんは戒斗の前方に存在する空気に強烈なベクトルを与えて盗賊達を吹っ飛ばしたのである。
ちなみに弥生さんの認識の範囲内ならば指定は結構雑で良いらしく、例えば「一定空間内の空気」などでも問題無く機能する。
デメリットは、生物を指定できないくらいだ。
僕は馬車後方を警戒しながら戦況を確認していく。
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