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「あんな瘴気の密度は見たことがない……一体、どうなっているんだあの山……?」
二人が呆然と見つめる中、僕は釈然としない気持ちでそれを見つめる。
瘴気とは、この世界に存在する「害のある何か」だ。
時折大陸の各地に発生するが、未だその正体は判明していない。
浴びても基本的には無害だが、聞いた話によるとスキルの発動を著しく阻害する効果があるらしい。
更に、その状態で無理矢理スキルを使用すると、絶大な疲労感と共に様々な体調不良を起こすそうだ。当然だが、僕は実感したことがない。
また、瘴気の発生している地帯では強力なモンスターが繁殖しやすい、という研究結果も出ている。
つい先程、頭上を通り過ぎていった『ワイバーン』も恐らく、瘴気の影響で発生した物だろう。
そして普通の人、スキルが一つでも使える人間には瘴気が黒い霧のような物として"見える"らしい。
これが二人の反応に僕が釈然としない理由だ。
二人が目を見開いて硬直する程の瘴気でも、僕には「ちょっと変かな」くらいにしか見えないのである。
「……そんなに凄いの?」
「あ、ああ。もし、登るとしたらダンジョンレベルの探索難易度になるだろうね。……登ろうと思う人なんていないと思うけど」
ぼそりと最後に付け足す弥生さん。
「へぇー、ダンジョンか……ん?」
それを聞いて僕は、昨日の晩に聞いた話を思い出す。
「……もしかして、あれが『魔剣の山』だったりする?」
弥生さんは僕の言葉に数秒沈黙し、答えた。
「……可能性としてはかなり高いね。なるほど……あの瘴気の量じゃ『ドラゴン』が巣食うのも頷ける」
「……おい。何か真剣に話してるところ悪いんだけどさ。お前ら、ここから早く離れないとヤバいって分かってんだよな……?」
立ち止まって話している僕と弥生さんに呆れたような視線を戒斗が向ける。
「あ、ああ、ごめん。無駄話をしてしまった」
慌てて僕達は再びキャンプ地へ向かって歩み始める。
少し急いで帰ったからか、空が軽く夕日で赤み始めた所で僕達はキャンプ地へ戻ることができた。
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