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文典さんが言うには、この世界の物体は物理的な方面以外でも摩耗するらしい。
「スキル焼け」と言われるその現象は、物体に力を付与するスキルを使い続けることで疲労が溜まっていくことを指す。
普通の物理的な消耗と違って表面に出てこない見えない疲労は、この世界にしか存在しない特殊な鉱石から作った液体でないと修復することができず、文典さんが剣に塗っているのがその液体だ。
見えない、と言ってもある程度負荷がかかり続けると、それは表面的な傷として現れる。そして、蓄積を続けると大事な場面で最悪の場合、剣が砕ける。
それは四葉や弥生さんの使っている杖にも言えることで、スキルを出す媒体として使っている間はやはりスキル焼けが起こる。
実の所、あの二人は杖なんか無くともスキルを出せるのだ。
その証拠に四葉は昨日、杖なんて使わず手の平を僕の頭に触れさせて回復スキルを使っている。
では何故、あんなかさばる邪魔な物を使っているかというと、そちらの方が都合が良いからだ。
魔法、と呼ばれる区分に属するスキルは媒体を通して使用すると、威力が増すことが実証されている。
言ってみると、四葉がいつも肌身離さず持っているあの大振りな杖はスキルの増幅装置なのだ。
弥生さんの杖もそうだが、あちらはどちらかというと狙いをつけやすくする為に使っている意味合いが強い。
指揮棒のような形状をした弥生さんの杖は、スキルの指向性を定める方向に用途が傾いている。よって、増幅機能は四葉の物ほど高くない。
しかし、そもそもあの杖でもモンスターを一撃で殺せるくらい弥生さんのスキルは元から強力だ。
下手に増幅すると本来は物体浮遊魔法のはずの《ベクター》で、空気をぶつけただけで相手の人間がミンチになりかねないのである。
もし、弥生さんが四葉の杖を使って最大火力の砲撃魔法を放ったしたらそれだけで一つの戦場が壊滅する。
実際、それが先の戦争で行われ、その時付いた二つ名が『リトルガール』。
第二次世界大戦時に使われた原子力核爆弾『リトルボーイ』から取っているのだろう。不謹慎極まりない。
その時の弥生さんがまだ十六歳ほどで、今と比べて容姿が幼かったこともあるのかもしれない。
当然ながら、本人はその名で呼ばれることをかなり嫌っている。今の杖に変えたのも、その時のことがあったからだ。
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