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普段は飄々とした頼れる頭脳派お姉さんだが、彼女も心に少なからず傷を負っているのだ。
僕の「不殺」の意向に進んで従ってくれるも、そのせいかもしれない。
文典さんが、燐姉さんの剣の手入れを終えた所で、僕は周囲の警戒に意識を傾ける。
今日は雲が少なく、月明かりのおかげで明るい。
僕達がこの丘に登ってきた方向からは何も来る気配が無い。周りは崖だが、そこから登ってくるのは些か危険だ。
空を飛べるスキルでもあれば別だが、少なくとも僕の知っている飛行スキルは使用後の疲労度が絶大だ。
それを全ての飛行スキルに当てはめるとするなら、余程使い込んでいたとしても、下からこの高さまで登ってきた頃には疲れて動けなくなっている可能性が高い。
それに飛行系スキルは所有者数が極端に少ない。中規模の盗賊団でも持っているのは一人いるかどうかだろう。
いくら僕達が少人数にしたって、それで攻めてくるのは無茶にも程がある。
まともな頭を持っていれば、そんな策は使わないだろう。
それでも油断せずに周りを見張っていると、しばらくして文典さんが僕の隣にやってきた。
「終わったの?」
「ああ。全員分の手入れは終わったよ。あと二時間くらい、頑張ることにしようか」
見てみると、焚き火から少し離れた所に修繕を終えた剣や杖が置いてある。
文典さんは、作業で固まった体をほぐす為か、立ち上がって少し準備運動のような物をすると空を見上げる。
「……相変わらず、良い空だねー」
「うん。そうだね」
大気が全く汚染されていないこの世界の空は、恐ろしいくらいに綺麗だ。
「でも、織姫も彦星もいないのはちょっと寂しいかな?」
しかし、やはり前の世界とは星の並びが違う。星座なんて合致する物は一つも無く、天の川のような極端に密集した星々も無い。
というよりも、密集し過ぎて天の川が全体に広がっているという方が正しいか。
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