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奇跡的に、ツキナは命を取り留めた。
だが、ツキナの心は、死んでしまった。
……いや、死んだのではない。
ツキナは心をバグ=シャースに喰われてしまったのだ。
私は依代に問いを放ちながら、静かに彼女を見据えた。
私の瞳に宿る光は、先程よりも数段冷えたことだろう。
他のゲーム会員達が『月様はバグ=シャースの巫女になられたのだ』と言い始めた時は、何を馬鹿なことを、と思った。
だがその考えは、ジワジワと私の思考を侵していった。
だって、私だって、信じたくないのだ。
ツキナが、あの女神が、心を亡くしたただの廃人になってしまったなんて。
だから『更なる贄を捧げてバグ=シャースの気が収まれば、月様の心は帰ってくるかもしれない』と言い始めた輩を、本気で止めることができなかった。
ツキナの傍にいたいという一心で、元々『司祭』というゲームポジションにあったことを利用して、新興宗教団体『銀月の会』会長代理に収まり、ここまでやってきた。
事情を知らない人間達にツキナの神性を勘違いさせるために薬物を盛り、元心理カウンセラーとして身に付けたスキルで人々の心を操って。
「『銀月の会』の実体を知る者の中で、あなたが一番、現実世界に近い場所にいるから』
そんな私を捕まえておいて、依代はそんな戯言を口にする。
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