深淵の使者はかく語りき

12/16
前へ
/16ページ
次へ
 そもそも、彼女の発言はおかしい。  『調べた』と軽く彼女は言うが、列挙された事実はそんなに簡単に知りえるようなものではない。  銀の鍵だって、簡単には入手できないはずだ。 「……今の発言、自白と取ってもいいですか?  自殺の指示を送ったこと、認めましたよね?」 「……それが、何ですか?  ただ『聞いた』というだけで、証拠になるとでも?」 「ええ」  彼女は私の言葉に笑みを深めると、スッと左手を前へ差し出した。  指から力が抜かれ、握られていた銀の鍵が、支えを失って落ちていく。  妙にスローモーションで流れていく景色の向こうで、パチンッと指が鳴らされた。 「『私』ではなく『みんな』が聞いていたなら……ね」  その音に叩き起されたかのように、部屋にある全てのパソコンの画面がパッと明るくなった。  その画面には、どこかの部屋が映っていた。  監視カメラの映像なのだろうか。  天井から部屋の中を映すアングルで、中心に置かれた机を挟んで男女が向き合って座っている。  だがその人物達はお互いを見ず、二人とも天井に顔を向けていた。  その表情は、驚愕に満ちている。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加