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柔かで温かみのある光に包まれた霞、その温かみが消えると共に感じる大地の感触。
それは、慣れ親しんだ地球温暖化の先駆けとなったコンクリートではなく、一度興味本意で訪れた富士の樹海に足を踏み入れた時に似ていた。
これで地獄絵図な光景が広がっていたら、神様を恨んでやろう。
そう心に秘めつつ、閉じていた瞳を重たい扉を開ける感覚で、ゆっくりと開いてみた。
「……」
すると、どうだろう。
今まで見た事の無い光景が、目下には広がっている。
腹が捩れる位に澄み渡った空、火薬特有の硫黄の臭いが微風に乗って鼻腔を擽り、平地ではマスコンバットが開催されていた。
これ戦争やん、戦火真っ只中やん。
防壁の構えは卑怯臭いやん。
剣と剣が火花を散らし、人が人の命を奪い合い、怒号が飛び交う戦場の中で私は、ちょっと小高い丘に居るのにも関わらず、その凄まじさや激しさに身震いするも、いまいち展開を読み取れずに懐かしい過去の思い出に耽る。
「モニカ姫は可愛い」
霞が、いやらしい笑みを浮かべながら解せない呟きを発すると、ひゅんっと風を切る音が聞こえると共に、一本の矢が突き刺さった。
無論、霞にである。
え……うそ、でしょ……?
綺麗に弧を描きながら霞の胸を貫き、矢尻から鮮血が滴り地面を赤く染め上げていく。
「うぁ……ウ、ウアアアアアアアア!」
霞は狂う、始まりと共に終わった自分の人生に。
「アアアアアアアアアア!?」
狂気染みた霞の悲痛な叫びは、幸か不幸か戦場にも届いた様で、剣劇が静まりを見せ、誰一人とて言葉を発すると事が出来なかった。
一様にして、霞の狂ったキャリーの如く上げた悲鳴に耳を取られ、その姿に目を奪われたからだ。
嫌だ嫌だ死にたくない!?
「ナンデ! ドウシテワタシガ!?」
酷い言語障害まで出始めているが、彼女は一糸纏わぬ姿であり簡潔に述べるとするならば、全裸である。
戦場の激戦区になっていたこの場に、その様な者が全裸で尚且つ胸に矢が突き刺さっている状態で、奇声を上げているのだ。
見ない筈がない。
気付けば悲痛な叫びはピタリと治まり、だらりと俯く霞。
方唾を飲んで、その様子を見守る者。
訳も解らず周りを見渡す者や、前屈みになっている者。
これから何が始まるんです? と、顔が物語っている者。
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