12人が本棚に入れています
本棚に追加
教室内にオレンジ色の西陽が差し込み、帰りの予鈴が鳴り響くと、生徒達はたちまち立ち上がり教室の出口から出ていく。
ガヤガヤと騒いで出ていく一団はあっという間に居なくなり、もぬけの殻と化した教室に残るは、二人の少女のみでその内一人がこの物語の主人公である。
「霞ってさー、前々から思ってたけど、どっかのジムにいるでしょ?」
「私、水タイプ苦手なりけりwwwww」
「じゃあ、何タイプか好きなの?」
「モッチーかなwwwww」
些細な世間話で盛り上がっているが、質問を投げ掛けられた少女が柊 霞(ヒイラギ カスミ)。
露骨に草を生やして台詞を吐いているが、これでも華も恥じらう十七歳の高校二年生で、青春真っ盛りである。
「昨日の黒羊面白かったよねぇ!」
「私、黒羊より王子と魔女とプリンセス派wwwwww」
「あー、確かにいいよねぇ~」
一つ言い忘れていた、彼女は青春真っ盛りと言ったがそれは三次元の話ではなく、二次元に限った話である。
類は友を呼ぶ。と言う言葉がある様に、霞に話し掛ける少女もまた然り。
可哀想な事だが一身上の都合により、名前はまだない。
「あっ、今日って演歌の王子様やるんだった、ばいばいっ! またねっ!」
「ほいほい、また来週!」
名無しの少女に声を掛けて見送ると、霞もまた鞄を手にして夢現な週末、連休に思いを馳せる。
明日は土曜日、誰もが喜ぶ休日である。
しかし、彼女には遊びに出掛けると言う概念がない。
「今日から撮り溜めたアニメを、見るぞっ!」
彼女がピョンと跳び跳ねた時、ガツン! と言う音が聞こえると机に突っ伏し、くぉぉぉぉぉ……! と、悶絶して地獄からの死者ばりに唸っている。
「……ニーがぁ……! 私のニーさんがぁぁぁぁぁぁあああ!!」
思わず痛みに敵わなかった絶叫が、教室から廊下に掛けて轟く。
因みに、ニーさんとは膝の事であり、どうやら机に膝を打ったらしい。
「でも負けないwwwwぶぉーっと鼻息飛んでく友っ達!wwwドシンと足踏み先生尻っ餅!wwwだけど心はポッカポカアッー!wwwwww」
それでも、彼女はめげない。
そして、しょげない。
しかし、某恐竜ではないのは明らかである。
「柊ー、うるせーから早く帰れよ」
「だぁぁぁらっしゃあああ!! 貴様に、貴様なんかにっ……この痛みが解るかっ!」
「帰れよ」
最初のコメントを投稿しよう!