プロローグ

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 彼女の声に気付いたのか、教室の出口で名簿を肩に乗せた担任が呆れた様に声を掛ける。  この流れは最早、日常茶飯事で貴様扱いされた担任は既に慣れている為、特に言及はなく、霞のノリを笑顔で軽く受け流していく。 「はい、あ、でも男に興味無いんで後ろからの壁ドンは遠慮しますからね?」 「フルボッコにされんのとフルコンボにされんのと、さっさと帰るの……選んで良いぞ?」 「そのドンは反則だドォォォォォン!!」  霞は命の危険を動物的感で察知すると、ぶつけた膝も気にせずに逃げ出した。  そのスピードは脱兎の如く。  学校を出てからの帰り道、夕暮れに染まる坂を下っている途中で、足が縺れ(もつ)回転しながら転がっていく霞、合間に『もうっ一回、もうっ一回、私は今日もっ転がりますとっ』等と歌っている辺り、余裕が見受けられる。 偶然にも通り掛かった乳母車に接触したが、乳母車を押していた母子、霞共に目立った怪我はないのが幸いだった、母親と霞はお互いに慌てふためきながら、謝罪を繰り返す。  霞は居たたまれなくて、空気を変えようと試みた。 「問ー題ーなーい、と呟いた。呟いたのぉーはぁだぁれ? 大丈夫だ、問題ない。そんな装備で大丈夫か? とフラグ立てってもー!アッー!」 「……」  時間が凍った、時が止まる様な不思議な体験をして呆けていた母親だったが、それが次第に顔をしかめ無言の圧力が増していく。  それにより、撤退を余儀なくされた霞は、小さく謝罪して急いで後にしようとした時、偶然にも坂を下って来た自転車と衝突する。 「ただ回る事が楽しかったwwwwこのままでいたかったwwwwwただ回る続けてたら、止まり方を忘れてーおふぅっ!?www」  彼女は轢かれて前方に飛翔して地面に倒れ、黒ひげ危機一髪の如く運転手が彼女の上に、右肘を突き出した形で落下してくる。  彼女は予想以上の痛みに転げ回った。  その痛さは、笑いが生じてしまう。  または愛しいあの子が、憎らしくなる程の心の痛みか。 「ひたい!wwww涙ちょちょぎれwww私マジギレwwwww 貴様、好きなMSはなんぞ!?」 「グフッ!!」 「私はゲルググ派wwww相成れないようねwwww」  霞の変化に戸惑いつつ困惑する青年を気にも止めず、彼女は右から行くと見せ掛けた左の肘で青年をどついた。  余談だが、語り手の好きなのはビギナギナである。
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