プロローグ

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 止まっていた様に思えた時間は、突如にして無惨にも動き出す。  背中にはアスファルトの硬い感触、聞こえるは甲高く鳴るクラクションの音が段々と近付いてくる。  辺りを見回し、一定の方向で彼女の表情が固まる、それもその筈で青年と共に道路へ飛びしている、しかも目前には大型のトラックが迫っている。 「危ない!」  青年もトラックに気が付いた様で、咄嗟には叫んで後方に飛び退いた。 「ちょwwww私はwwww」  恐怖心よりも、驚愕の気持ちが勝っている様子で青年に助けを求める少女。    後方へ退いた事で後ろを向いた青年(よく見たら割とイケメン)は振り向き、飛びっきりの笑顔を彼女に向けた。 「ごめん、無理」 「……なん……だと……?」  そこまでが、霞が死ぬ事になってしまった事の顛末であり、僅かな人生に終止符を打った。  しかし、その終止符を認めない者がいる、いや、認められないと言った方が正確だろう。  何せ、柊 霞が死ぬ事になってしまったのはその者が関わっているからである。 「あっちゃー……やっちゃった」  場所はうって変わり、この場は白い閉鎖空間。  そこには金髪の白い衣服を纏う人物が二人、一人は長身の男で白い天井を見上げて苦笑いを浮かべている、もう一人の女性は呆れた様に溜め息をついて額を押さえる。 「主……これが大事な物だと解っていますか……?」 「そうは言われても……この書類が破け易いのが悪いんだよ、僕は悪くないっ!!」 「……本当は……?」 「はい、僕が柊 霞と言う人物の書類に真面目に書いても面白くなかったので、冗談半分で、乳母車との接触、その後自転車に撥ね飛ばされた挙げ句、大型トラックに轢かれると言う三重の罠に腹筋が敗北している最中に、消しゴムを使う手が震えて書類が破けてしまいました。十中八九、どう見てもふざけた僕のせいですっ!!」  横に佇む女性の瞳は弧を描き、やんわり微笑む様は女神だがそれとは裏腹に、ドスの利いた声と体から放たれるのし掛かる様な重圧が、椅子に座っていたもう一人の男を震え上がらせると、男は勢い良く且つ盛大に土下座をしている。 「本当に使えない主ですね」 「ふぐぅっ……」  頭を垂れる一人の男に、腕組み(意図としないバストアップ)した人物が上から心の臓を突き刺す様な一言を告げると、土下座の男は呻いただけに終わった。
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